「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

「不動産テック協会」<br />
(不動産×ITを軸とした不動産テック業界団体)
総 説
Report_Case20

「不動産テック協会」
(不動産×ITを軸とした不動産テック業界団体)

あらゆる業種で不可避な“産業のテック化”を
カオスマップ作成と協会設立によって起動する
〜テクノロジー主導で業界の課題解決に挑戦する不動産テック協会〜

2019.08.27facebook

 ICTの発達とデジタル技術の進化は今、世界に劇的な変化をもたらしている。
 GAFAに代表されるプラットフォーマーの台頭は商品や情報、サービスの流通に変革をもたらし、支配的な存在として世界中のユーザーの個人情報を集積・活用するようになった。また、SNSの普及は新たなコミュニケーションの方法を提供するとともに、個人がメディアとしての情報拡散力を持つことを可能とした。そして、スマホアプリなど大量複製が可能なデジタルサービスは、無料サービスで膨大な数の顧客を獲得し、高機能なサービスで課金するフリーミアムというまったく新しい収益モデルを確立したのだ。
 サイバー領域に端を発したICT革命はリアルな領域にも新たな価値を与えている。例えば、メルカリやラクマなどのフリマアプリだ。サイバー空間に登場したフリーマーケットによって、インターネットを介した個人間(CtoC)の物品売買が可能になった。不要品の写真を撮ってスマホでアップするだけでマーケットに出品できる手軽さで、フリマアプリ市場は急速に拡大。2018年の市場規模は6,392億円に上った。2012年の登場からわずか6年間で6,000億円超の巨大な市場が形成されたのだ。
 リアル空間ビジネスという“場”の商売でもICTによって新たな価値が顕在化されている。軒先ビジネスやスペースマーケットといった未活用空間シェアリングのプラットフォーマーが登場し、既存の不動産事業者が扱わない店舗前の狭小空間や飲食店の空き時間、空きビルや個人住宅の一室などの短期利用を可能とした。移動販売や間借り飲食店の開業、ポップアップストアや撮影、ホームパーティでの利用など多様な空間活用が生まれているのだ。
 ICT主導によってデジタルイノベーションを引き起こし、新たな価値を創出する現象は、あらゆる産業で起き始めている。その現象は「産業×Technology(技術)」として表現され、「X-Tech(「クロステック」もしくは「エックステック」)と総称されている。
 X-Techは既存の技術を単にデジタル化するだけのものではない。IoTによって人間の様々な活動をビッグデータ化し、そのデータをAIに与えることよって、複雑な判断を下せるようになり、従来にはない新たなサービスと価値が生み出されている。まさに、その向こうには “第4次産業革命”が待ち受けているのだ。
 産業のテック化と言えば筆頭に挙げられるのが、金融のテック化「FinTech(フィンテック)」である。例えば、金融取引などの記録をコンピューターのネットワーク上で管理する技術であるブロックチェーンは、取引の記録を集中管理する大規模なコンピューターが不要となるとともに、この技術を応用する仮想通貨の利用が一般化すれば銀行の預金や為替の業務に取って代わる可能性もあるのだ。
 総務省が発表した『平成30年情報通信白書』では、X-Techを「産業や業種を超えて、テクノロジーを活用したソリューションを提供することで、新しい価値や仕組みを提供する動き」と定義している。同白書では、X-Techの事例を次のように整理している。
 
様々なX-Techの事例
出典:総務省『平成30年情報通信白書』
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd122200.html
 
 図表からも分かる通り、幅広い業種で「テック化」が進んでおり、そのムーブメントはあらゆる業種に波及していくことが予測される。
 だが、産業のテック化は始まったばかりであり、普遍的な方法論が構築されているわけではない。不可避であるテック化に何から着手すればよいのか。その大きなヒントを与えてくれるのが、不動産テック業界での取り組みだ。
 その取り組みはまず、「不動産テックカオスマップ」の作成から始まった。カオスマップとは、ある業界にどのような領域とプレーヤーが存在しているかを一覧できる業界地図のことである。不動産テックカオスマップの作成は平成29(2017)年6月に第1版が発表され、以来、改訂が続けられ、平成30(2018)年11月には第4版が公開された。
 第4版では12のカテゴリーに263のサービスを掲載。版を重ねるごとに領域が整理され、第4版では第1版と比べると約3倍の掲載数に上っている。
 
不動産テックカオスマップ

不動産テックカオスマップ第4版
出典:一般社団法人不動産テック協会ウェブサイト
https://retechjapan.org/retech-map/
 
 カオスマップの作成により、不動産テック業界にどのような領域とプレーヤーが存在するかが可視化された。埋もれていた不動産テック企業の顕在化は、プレーヤー同士の協業を導いた。さらに、不動産テックがひとつの業界として成立し得るという意思表示にもなった。
 業界としての顕在化は、平成30(2018)年7月の一般社団法人不動産テック協会の設立へとつながっていく。同協会では5つの部会を設けて、分野ごとに具体的な活動を展開中だ。すでに、主管である国土交通省の事業にも参画するとともに、不動産関連の法案に不動産テックの視点からパプリックコメントを提出するなどアクションを起こし始めているのである。
 カオスマップ作成によって領域とプレーヤーを可視化し、プレーヤー間の協業を促す。そして、業界全体の利益を目的とした協会を設立し、省庁の事業にも対応し、将来的には政策にも関与できる存在感を示していく。不動産テック業界の取り組みの道筋は、今後、テック化に取り組もうとする業界のヒントになるものと言えるだろう。
 研究レポートでは、テック化へ向かうICTの進展、不動産テック業界におけるカオスマップの誕生と変遷、不動産テック協会の取り組み、そして不動産テック協会代表理事の武井浩三氏のインタビューを紹介していく。

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
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