リアルな空間でリアルなモノを預かる倉庫業は、IT化とは縁遠い業界のように思えます。しかし、業界ではタブー視されていた個人荷物の開梱という“前代未聞の行為”に打って出ることでクラウド化を成し遂げた倉庫業界の革命児がいます。個人ユーザーが倉庫に預けた箱の中のアイテム一つひとつをオンライン上で管理し、共有することができるクラウドストレージサービス「minikura(ミニクラ)」を展開する寺田倉庫(株)です。
minikuraは、預けた段ボール箱の中身をウェブで「確認」「取り出し」「共有」できるクラウド型の保管サービスです。“自分だけのパーソナル倉庫”が月額250円(1箱)という破格の料金で持てるだけでなく、預けたアイテムが写真付きでデジタルデータ化されるので、いつでもどこでもネット上でクラウド管理できる画期的な保管サービスなのです。minikuraは、その利便性から急拡大を続けています。
minikuraは、家具や衣類、コレクショングッズや書籍、スポーツ・レジャー用品などの保存管理を行う個人向けの収納ビジネスに3つのイノベーションをもたらしました。
第1のイノベーションは、「“モノ”のクラウド化」です。
minikuraは、個人から預かった多種多様なアイテムを一品単位で撮影してデジタルデータ化を図るとともに、オンライン上で一元管理できるという「“モノ”のクラウド化」を実現しました。このことで、Google DriveやiCloudなどのデジタルデータを預かる「クラウドストレージサービス」と同様に、いつでも、どこからでも預けた“モノ”にアクセスしたり、取り出したり、付加サービスを依頼したりすることができるようになり、かつ、誰とでも共有できるようになったのです。
第2のイノベーションは、「パーソナライゼーション」です。
minikuraが「“モノ”のクラウド化」を実現したことで、個々人向けにサービスをカスタマイズする「パーソナライゼーション」が可能になりました。ユーザーがオンライン上の「マイページ」から依頼するだけで、衣服のクリーニングや旅先への送付、SNSやブログでの販売、ネットオークションへの出品など、多種多様なサービスが利用できるようになったのです。
第3のイノベーションは、「プラットフォーム化」です。
多種多様な収納・物流ニーズにカスタマイズできるフレキシブルなシステムを構築したminikuraは、自社での事業活用にとどまらず、コレクションフィギュアを預かるバンダイの「魂ガレージ」やスタートアップ企業が手掛ける月額制の洋服レンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)(※1)、SNSサービスを展開する「Summally(サマリー)」など、30社以上の提携企業が利用しています。「スモールマス」(※2)と呼ばれる小さなセグメントに分割された多種多様な市場にも対応できる「収納ビジネスのプラットフォーム」へと進化を遂げたのです。
空間を用意して荷物を保管することが本業の倉庫業。寺田倉庫は荷物のデータをデジタル化してクラウドストレージに格納し、リアルな倉庫と連動させることで、荷物を「ただ保管しているだけ」では得られない新価値を創造しました。それはまさに、リアルな倉庫業とバーチャルなクラウドストレージサービスを融合した“リバーチャルビジネスモデル”の先進事例です。研究レポートではminikuraの誕生と広がり、今後の可能性について探っていきます。