研究Report_06

2.5次元ショップ降臨
〜ファンが共感するリアル店舗の作り方〜
Vol.03

妖怪ウォッチ オフィシャルショップ ヨロズマート 福岡総本店(キャラクターショップ)

  編著:にぎわい空間研究所編集委員会
 

 
子どもの目線を意識した店舗設計で
妖怪ウォッチの世界に迷い込ませる
 

 総本店の店舗設計の方針を決めるうえで、水野氏は子どもの「目線」を意識するように指示した。その意向を反映すべく、ハード面では、子どもの身長と目線の高さを考慮し、商品の陳列棚を通常の規格より約50㎝(一部の什器)下げた。さらに店舗内の回遊性でも工夫を凝らした。
 
 店舗開発の責任者であるBIGFACEの深澤貴征氏(クロスメディア事業局SHOP事業部プロモーション営業課長)は「店舗の外側は、妖怪たちが買い物をする『妖怪銀座』の設定で、ヨロズマートでしか買えない商品を集めました。まずそこを回ってから店舗の中心へと進んでいきます。妖怪ウォッチのゲームソフトはロールプレイングゲームです。店舗でも回遊性を高めて、妖怪ウォッチの世界に迷い込んだ感覚を持ってもらうよう心がけました。子どもたちには、ゲームやアニメの主人公になって欲しいですね」と語る。
 

「最近は都会も田舎も同じような風景の町並みです。
ここにしかない店を作りたいと思いながら店舗の開発をしました」と
語る深澤貴征氏
(BIGFACEクロスメディア事業局SHOP事業部プロモーション営業課長)。

 
 
 子ども目線の極めつけはレジカウンターだ。レジブースの下には映像モニターが設けられている。支払いをする大人は気づかないが、脇で待つ背の低い子どもたちにはモニターからキャラクターたちが「また来てね」と話しかけてくるという工夫を凝らしているのだ。特殊設計されたスピーカーで、その音声は子どもにだけ聞こえるという。
 

総本店のレジカウンター。
8つのブースが設けられ、混雑時でも円滑な清算を可能とした。
レジ下にはモニターが設けられ、子どもたちを飽きさせない工夫を凝らした。

 
 

子どもたちは妖魔界に来たと思っている
そう感じていることを意識しなさい
 

 商品のディスプレイでも子どもたちの目線を重視した。実作業を指揮したのは総本店の店長を務める井手上匠氏はこう語る。
 
 「子どもたちの身長は110cmから130cmぐらい。その目線から見上げたときに妖魔界の大きな世界が広がっている。店舗の外周はぬいぐるみ商品を固め、文房具など細かい商品は中央の棚に集めました。圧倒的なボリュームのぬいぐるみをディスプレイすることで、子どもたちを妖怪ウォッチの世界へ引き込んでいく。とにかく五感を刺激する店舗を目指しました」
 
 店内では販売スタッフたちの「ヨロズマート総本店へ、ようこそ!」という声が途切れることはない。笑顔を絶やさず、入店する子どもたちに声をかけていく。そのホスピタリティの高さはテーマパークの会場スタッフの接客を感じさせる。水野氏は「子どもたちは妖魔界に来たと思っている。そう感じていることを意識しなさい」と現場に指示をしたという。
 

ぬいぐるみのディスプレイは子どもたちの目線を意識して陳列されている。
商品そのものが子どもたちを妖魔界に誘う役割を果たす。

 
 
 

没入感を生み出す演出への投資こそが、
「稼ぐところで稼ぐ」ための方程式
 

 スタッフ募集では妖怪ウォッチのファンが多く応募してきた。店長の井手上氏は、アルバイトスタッフに対して、この店舗には妖魔界という世界があることを説明し、「子どもたちがドキドキ、ワクワクする世界を作ろう」と徹底的に伝え続けた。その上でチーム意識を構築し、統率を重視しながらアルバイトが責任を持って世界観を作る一員となるようスタッフをまとめ上げていったのだ。
 
 こういったハード、サービスの両面で徹底して妖怪ウォッチの世界観を再現しようとしている姿勢が総本店を2.5次元ショップにしている大きな要因なのだ。そして、子どもたちの没入感を生み出す演出への惜しみない投資こそが、水野氏の言う「稼ぐところで稼ぐ」ための方程式と言えるだろう。

 
 
コンテンツありきのショップだから、
売上重視の店舗を作ったらファンは逃げます
 

 福岡の総本店では物販エリアの奥に約46.6㎡のゲームエリアがある。物販エリアが約216.2㎡なので、ずいぶんと贅沢なスペースである。このエリアを設けたのには明確な理由があったと水野氏は語る。
 
 「僕は総本店が妖怪ウォッチのファンの交流場になればよいと思っているので、ゲームエリアを設けました。妖怪ウォッチはデータやメダルを交換できるゲームだから、集まる場所が必要なのです。放課後や週末に3DSを持って、子どもたちがここに来る。知らない子とも友だちになってデータのやり取りができるのです。子どもたちの交流でにぎわいを作っていきたいのです。別にモノは買わなくていい。それは迎えに来る保護者にお願いします(笑)。とにかく、子どもたちが長い時間いたいと思う場所を作りたかった。コンテンツありきのショップだから、売上重視の店舗を作ったらファンは逃げます。それは強く意識していましたね」
 
 

「ゲラゲランド」をモチーフにしたプレイコーナー。
中央のカプセルトイの自動販売機の周囲は、
ゲームを持って子どもたちが座れるように段差が設けられている。

 
 
   キャラクターの世界に子どもたちを引き込み、コミュニティの場を作る。そのにぎわいが従来の物販店にはないにぎわいを生み出す。自発的に集まったファンたちだから醸し出せる熱気。総本店の持つにぎわいの源はそこにあるのかもしれない。開業1カ月を待たずに、総本店のゲームエリアではすでに子どもたちがたまり、3DSで遊ぶ光景が見られるようになっているという。水野氏の狙いは確実に実を結び始めているのだ。
 
 BIGFACEでは今後、声優のトークイベントなども開催してファンを巻き込みながら、情報発信を展開していく予定だ。それは、リアル店舗が唯一無二の存在価値を持つメディアであることを証明していくことだろう。

 

 

プレイコーナーに置かれたメダルのコレクション「妖怪大辞典」。
隣には各国で発売されているメダルが紹介されている。
ファンにはたまらないアイテムの数々である。

 
 
日本の素晴らしいコンテンツだからこそ、
日本人がテーマパークを作らなくちゃいけない

 

 BIGFACEでは今後、東京、福岡に続き、パートナー企業とともに、札幌、大阪、名古屋にもヨロズマートをフランチャイズ出店していく考えだ。大都市に準ずる中核市規模の都市にはヨロズマートの約半分の規模となる「ヨロズマートミニ」を出店する。
 
 関東圏では、7月8日に「ヨロズマートミニ ららぽーと海老名」(神奈川県海老名市)、7月15日に「ヨロズマートミニ セブンパークアリオ柏」(千葉県柏市)、7月20日「ヨロズマートミニ グランツリー武蔵小杉」(川崎市中原区)が相次いで開業した。
 
 それ以外の地方都市でも期間限定の公式ショップ「出張ヨロズマート」を出店していく。また、妖怪ウォッチというコンテンツの広がりと連動し、海外にも店舗を出店していく計画もある。水野氏は多店舗化の意義をこう語る。
 
「店舗を増やしながら顧客のニーズを吸い上げ、商品開発に生かしていきます。それぞれの地方の名産品とのコラボレーションも行っていくでしょう。地方発の商品をどのように流通させるかは検討中です。福岡の総本店での経験を生かしていきたいですね」
 
 

豊洲店以降のオフィシャルショップの一覧。豊洲店以前は期間限定の「妖怪ウォッチ 発見!妖怪タウン」が開催されていた。今後は東京と福岡以外の5大都市でのヨロズマート出店が計画されている。

 
 
 
 だが、水野氏のゴールはさらに先にある。
 
 「僕のビジネスが目指しているのはテーマパークなんですよ。子どもたちが笑顔をみせる遊び場を作りたい。子どもの国です。それを作るのが僕のビジネスの目標です。アニメという日本が世界に誇る素晴らしいコンテンツを日本人自身がテーマパークにする。それは、日本人がやらなくちゃいけない。日本人のコンテンツなんだから。ゲームやアニメの制作者はコンテンツを作るまでが仕事。今度は僕らが汗をかく番です。そのためにもまずは店舗でじっくりと勉強して、一つずつ階段を上っていきたい。学ぶことはたくさんありますね」
 

総本店の内装の展開図。
建物を模した壁面の造形は妖魔界の設定に基づき「妖魔界門」「妖魔界」「笑地獄」「極楽円」などがデザインされている。
ファンにはたまらない趣向だ。

 
 
 
『体感』だけが、最終的には生き残る

体感にウェブやITは勝てない
 

 
 あらためて、水野氏はキャラクタービジネスにおけるリアル店舗の意義をどのように考えているのだろうか。 
 
 「マンガやアニメの世界が目の前に現れて体感できる。映画で観た妖魔界が目の前にあれば、子どもたちは感動するでしょう。それができるのは、ショップやテーマパークだけ。『体感』があるものだけが、最終的には生き残る。体感にウェブやITは勝てない。僕はそう信じています」
 
 
 

「ふくふく時間」になると「ふくふく超特急」が到着する様子がレジカウンター下のモニターに映し出される。
停車すると車掌が店内に現れて限定商品のチケットを配布。
ゲームでもふくふく超特急がいつ現れるか決まっていないので、総本店のふくふく時間も不定期で行われている。

 
 
 

2.5次元ミュージカルの成功要因を
兼ね備えたヨロズマート福岡総本店
 
 漫画やアニメ、ゲームといった2次元のコンテンツを題材にした「2.5次元ミュージカル」では、若い役者たちがキャラクターに成りきりながら躍動するライブパフォーマンスによって2次元作品にはない体感をもたらし、観る者を作品の世界へと没入させる。会場を埋め尽くすファンは一体感を覚え、そして互いに交流を深めていく。2.5次元ミュージカルは、こういった複合的な心的現象を引き起こし、ファンが作品へのさらなる共感を高めていくことを立証した。
 
 「体感」「没入」「交流」、そして「共感」。2.5次元ミュージカル、さらには2.5次元ビジネスと呼ばれる新たな分野に共通するこれらの条件を、総本店は兼ね備えている。劇中に存在する妖魔界の世界観を店舗のなかで再現し、来場者のメインターゲットである子どもたちが妖魔界に入り込む感覚を促す。店舗スタッフは妖魔界の一員に成りきって接客にあたる。そして、ゲームコーナーでは妖怪ウォッチのゲームをする子どもたちが集まり交流をしているのだ。
 
 つまり、総本店は、コンテンツの世界に入り込んで遊べるエンターテイメント性の高い物販ショップ「リテイメント(リテール [小売り] +エンターテイメント)」であることに加えて、店舗スタッフが作品の世界観の一員に成りきって来場客の気分を盛り上げる「成りきり運営」を実現している。そのハードとソフトの相乗効果こそが「2.5次元ショップ」を出現させるのである。
 

 

店舗設計を担当したフジヤが提案したコンセプトシート。 総本店が目指す店舗像として、物販と娯楽の融合「RETAINMENT(リテイメント)」を全面に打ち出している。

 
 
ファンを育成するための
新たな戦略的な拠点を得た妖怪ウォッチ
 
 
 来場客にとって、2.5次元ショップは単なる物販ショップではない。作品の世界観に浸ることができ、作品を愛する仲間たちと会えるかけがえのない場所なのだ。その特別な存在感は、リピーターを生み出し、遠方からの集客を可能にする。そして何よりも、来店時の感動や交流は、そのコンテンツに対する共感を深め、ファンを育て、広げてくれるのだ。妖怪ウォッチというコンテンツは、総本店ができたことで、リアルなロケーションでのファンを育成するための新たな戦略的な拠点を得たと言えるだろう。
 
 妖怪ウォッチ オフィシャルショップ ヨロズマート 福岡総本店。そのにぎわいは、今後、キャラクタービジネスにおいて2.5次元ショップが重要な役割を果たしていくことを予感させてくれるのである。
 
 
 

<Data>
名称:妖怪ウォッチ オフィシャルショップ ヨロズマート 福岡総本店
種別:キャラクターショップ
企画・運営:株式会社BIGFACE
開業:201671
営業時間:10:0021:00(定休日:無休)
所在地:福岡県福岡市博多区住吉1-2-1 キャナルシティ博多 ノースビル2
店舗延べ床面積:386.8㎡
施設概要:物販エリア、プレイエリア、アッカンベーカリー
購入者数:約16,000人(201671日からの1カ月間)
店舗設計・施工:㈱フジヤ
ウェブサイト:http://youkai-world.com/yorozumart/