研究Report_06

2.5次元ショップ降臨
〜ファンが共感するリアル店舗の作り方〜
Vol.02

妖怪ウォッチ オフィシャルショップ ヨロズマート 福岡総本店(キャラクターショップ)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会 

 
クロスメディア戦略の成功で
ヒット作を育ててきたレベルファイブ

 
 まず妖怪ウォッチというコンテンツの概略を整理してみよう。著作者は福岡市に本社を置くゲームソフト開発・販売会社の㈱レベルファイブである。同社は平成19(2007)年2月にゲームソフト『レイトン教授と不思議な町』を発売し、約1500万本を売り上げる大ヒットを記録。それ以降も、『イナズマイレブン』『ダンボール戦機』といった人気コンテンツを開発してきたヒットメーカーだ。
 
 レベルファイブのブームづくりの特徴はクロスメディア戦略にある。ゲーム、コミック、アニメ、映画、そして玩具などを同時平行で企画、開発しながら、メインターゲットである子どもたちの支持を得ていくのである。
 
 その集大成とも言えるのが妖怪ウォッチだった。平成24(2012)年7月に『コロコロコミック』(小学館)で漫画の連載を開始。ニンテンドー3DS対応のゲームソフト『妖怪ウォッチ』が発売されたのは1年後の平成25(2013)年7月だ。
 
 
 
一大旋風を巻き起こした妖怪ウォッチ
次なるクロスメディアはオフィシャルショップ
 

 平成26(2014)年1月から始まったテレビアニメで人気に火が付き始め、ソフトも急激に売り上げを伸ばしていく。また、バンダイでは劇中で主人公たちが妖怪を見るために使う腕時計の玩具を発売。爆発的な人気で品薄状態の時期が続いたことはメディアでも話題になった。
 
 ゲームソフトの第2弾『妖怪ウォッチ2 本家/元祖』も大ヒットを記録。ゲームソフトのシリーズ国内総出荷数は平成27(2015)年末時点で1000万本を突破した(ダウンロードを含む)。平成27年12月に公開された『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』は同週公開の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を抑えて週間の興行成績トップを獲得する快挙も成し遂げた。
 
 クロスメディアという戦略で成功を収めた妖怪ウォッチで次なるメディアとして位置付けられたのが、オフィシャルのキャラクターグッズと公式ショップ「ヨロズマート」なのである。
 
 

レベルファイブの代表、日野晃博氏をモデルにしたキャラクターの「DXくったりぬいぐるみだニャンL 日ノ神」。
同社のお膝元である福岡にオープンした総本店で限定販売されている商品。

 
 

BIGFACEはライセンサーとして
世の中に足りないものを補う
 

 キャラクターグッズや公式ショップの開発を担うライセンサー(著作権の実施許諾者)業務を担当しているのがBIGFACEである。同社は平成19(2007)年8月の設立。テレビ番組の制作会社としてスタートしたが近年はアニメキャラクターのライセンスを取り扱うライセンサー業務にも事業を拡大している。同社代表取締役の水野英明氏はその経緯をこう語る。
 
 「テレビ局から受注して番組を制作していましたが、制作だけでなく、コンテンツの2次展開、3次展開まで考えないと企業としての成長は難しいと考えていました。そこで『Numer0n(ヌメロン)』というゲームバラエティ番組でアプリなどを開発し、番組制作以外の分野にも事業を広げることに成功しました」
 
 企業としての新しい事業を見出したBIGFACEはアニメに注目した。
 
 「アニメは言語を変えれば世界で通用するコンテンツです。日本には優れたアニメ制作会社が数多くあります。だから制作で勝負してもしょうがありません。我々にはコンテンツの価値を広げ、育てる力があります。ライセンサーとして世の中に足りないことを補うことが我々にとってのビジネスモデルになるのではと思いこの分野に参入しました」(水野氏)
 

「僕のビジネスは『10』か『0』。経営者である以上は勝負をする。失敗なら大失敗でよい。
それが次につながる失敗であればね。大ホームランにつながるビジネスのモデルを作りたい」と語る
水野英明氏(BIGFACE代表取締役)。

 
 
 

様々なコラボレーションが実現し、
キャラクターの新しい世界が広がった
 

 ライセンサーはキャラクターグッズやイベントなどを制作する会社からの依頼を受け、著作者との調整を図りながら商品や企画を管理するのが主な業務だ。BIGFACEの特徴は、単に著作権許諾の業務を行うだけでなく、自らもメーカーとしてマーチャンダイジング(MD)部門を置き、商品開発に取り組んでいることにある。その商品群は公式ショップである「ヨロズマート」で販売される。
 
 BIGFACEでは、主力商品のぬいぐるみに加えて雑貨やお菓子の商品の開発にも力を入れており、トンボ鉛筆(鉛筆、けしごむ)、ショーワノート(学習ノート)、塩瀬総本家(まんじゅう)といったナショナルブランドとのコラボレーションを実現してきた。水野氏はコラボレーションの意図についてこう語る。
 
 「キャラクターに頼るだけでなく、商品の力でキャラクターを盛り上げていきたい。でも、キャラクターをデザインしただけの商品では正直、限界があります。名の通っているブランドと組むことで、保護者の方々も安心してお子さんに商品を買ってあげられます。社長である私自身が希望する提携先に赴き、こちらの本気度を示すことで、一社ずつ協力を得てきました。様々なコラボレーションが実現した結果として、キャラクターの新しい世界が広がっていきました」
 
 

トンボ鉛筆やショーワノートとコラボレーションした文具類。
小学生の子どもを持つ商品開発スタッフが手がけた商品。

 
 
ネットでは伝えられない世界観
店舗でなければいけない理由がある

 
 現在、BIGFACEが自社開発したオリジナル商品のアイテム数は約500品目に上る。一般的にキャラクターグッズは店舗に加えて、オンラインでも販売するものだが、BIGFACEでは自社製品のネット販売を一切行っていない。
 
 「ネット販売を行わないのは、我々の商売の相手がお子さんだからです。ショップに来て、妖怪ウォッチの世界を体感してもらい、また来たいと思ってもらえないとビジネスが続きません。その世界観はネットでは伝えられない。通販では全然売れないと思いますよ。店舗でなければいけない理由があるのです」
 
 
 
小売を知らずに商品づくりを
することなどありえない
 
 水野氏が抱いてきたリアル店舗への強い思いが実現されたのが、平成27(2015)年10月に開業した初の常設公式ショップ「ヨロズマート in アーバンドック ららぽーと豊洲(以下、豊洲店)」(東京都江東区)である。運営主体は㈱ナムコだ。BIGFACEが企画・監修を手がけ、店舗づくりにも深く関わった。豊洲店は妖怪ウォッチの舞台となる「さくらニュータウン」をモチーフに、作品の世界観を表現した。来場するファンたちの「没入感」を追及した同店は、オープン後の45日間で来場者数10万人を達成した。
 

 

初の常設オフィシャルショップ「ヨロズマート in アーバンドック ららぽーと豊洲」。
作品世界に没入できる環境と圧倒的な商品数を兼ね備えた。

 
 
 「ナンジャタウン」など都市型のテーマパークで実績があり、キャラクターの世界観を再現することにかけては指折りの実力を持つナムコとのコラボレーションで実現したヨロズマートの豊洲店。しかし、ライセンサーであるBIGFACEは、あえて自社で運営を手がける総本店を福岡に開業することを決めた。その真意はどこにあったのだろうか?
 
 「我々は社内で商品開発をしています。小売を知らずに商品づくりをすることなどありえないと思います。自社で店舗を運営しながら小売を勉強し、子どもたちの動向をきちんとつかむことで、どういう商品が求められているかをしっかりと把握したかった。そこに確信があれば、メーカーから商品企画の提案があった場合も、ライセンサーとして適切な判断や助言ができると思ったのです」
 
 水野氏は若い会社を成長させるためにも店舗の必要性を感じていたという。
 
 「とにかく、お客さんと向き合うことです。従業員にはとにかく悩んでほしい。悩むことで従業員のレベルを上げていきたい。店舗で何が売れるかを実感すれば、商品開発スタッフの意識も変わるはず。よい商品がこれから生まれていくと思いますよ」

 

 

「ふくふく時間」になると車掌が店内に現れて限定商品のチケットを配布。
スタッフが子どもたちと直接交流できることで、リアルなニーズを掴めることも店舗を運営する意義だ。

 
 

多くの人々が選ばないこと、
反対することにこそ勝算がある
 
 総本店が開業した福岡市は妖怪ウォッチの著作者であるレベルファイブが本社を置く、言わば同作の聖地である。出店した複合商業施設、キャナルシティ博多には外国人観光客の来館も多い。妖怪ウォッチを世界に通じるコンテンツとして育てていくうえで、キャナルシティ博多は「世界のフラッグシップショップ」にふさわしいロケーションだったという。だが、水野氏には福岡市に出店する大きな動機があった。
 
 「総本店の企画を検討し始めた時、この分野の流通に詳しい方から『福岡ではエンターテイメントのビジネス、特に物販はうまくいかない』とアドバイスをいただきました。僕はその言葉を聞いて、『じゃあ、うちでやろう』と決意した。僕にはビジネスの法則があって、多くの人々が選ばないこと、反対することにこそ勝算があると思っています。人の思うことの逆をやりたい。だから福岡でやろうと。なぜ、福岡では成功しないか? クリエイティブに予算をかけていないからです。きちんと世界観を作れば、必ず成功することを示したかった」
 
 この水野氏の発想こそが、総本店で妖怪ウォッチの世界が徹底的に再現され、2.5次元ショップを出現させた原動力だったのである。
 
 東京のファンが福岡にまで行くほどの価値を作る。飛行機代をかけても訪れて、さらに買い物をしたくなる店舗にする。総本店という名に恥じない世界観を創出する。BIGFACEには、そういったハードルを自らに課しながら、総本店を成功させようという強い意志があった。だからこそ、他のヨロズマートにはない妖魔界を再現するという発想へと展開していったのだ。そして、妖魔界をテーマにできるのはライセンサーであるBIGFACEの強みでもあった。
 

総本店ではジバニャン、コマさんの着ぐるみも登場する。
他のヨロズマートではない演出だが、
「ここは妖魔界。ジバニャン、コマさんも棲んでいるので登場するのは自然なことです」と水野氏。

 
 
お金をかけて、よいものを作らなければ、
そこから派生するものは生まれない
 
 総本店の店舗内装では妖魔界を再現する立体的な造形がふんだんに取り入れられ、映像ディスプレイを数多く駆使した演出が施されている。一般的なキャラクターショップでは考えられない演出であり、当然、投資金額も大きい。
 
 「豊洲店ぐらいの規模に投資を抑えれば回収は早いでしょう。しかし、それは違う。番組制作のプロデューサーをしていた時代から僕には鉄則があります。お金をかけて、よいものを作らなければ、そこから派生するものは生まれない。先にお金を儲けることを追及すると、稼げるところで稼げなくなる。それが僕の持論であり、商売です」(水野氏)
 
 
2次元のゲームの世界を出現させ
祭のにぎやかさを加味した店舗プラン
 
 キャラクターの世界観を伝えるために、BIGFACEではネット通販を一切せずにリアル店舗での販売にこだわっていることはすでに触れた。当然、総本店では、妖怪ウォッチの世界へ子どもたちをいかに入り込ませるかを追及した。
 
 店舗設計者としてプロジェクトに参画した㈱フジヤのデザイナー、尾形茂雄氏は「とにかく妖魔界の世界を出現させること、そして、これまでのショップにはない世界観を作ることがミッションでした。ゲームの世界を肉眼で見られたらどのように見えるだろうと考え、プランを練っていきました。ただ、妖魔界だからといって店舗内の照明が暗すぎるとお化け屋敷になってしまいます。そこで、祭のにぎやかさをイメージしながら全体の色調を考えました」
 
 総本店の店舗装飾では立体的なオブジェが至る所に設置されているが、尾形氏いわく「店舗のあらゆる箇所で造形による立体感のある演出を重視したので、計画当初はテーマパークのようなプランでした」という。何度も店舗プランを修正しながら、来場客の動線を確保し、現在のかたちになっていった。
 

総本店の内装のパース。
子どもたちが妖魔界の世界に没入できるような店舗デザインを目指した。
また、水野氏には「子どもたちが長居をしたくなるような空間にしたかった」という思いがあった。