「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

研究レポート

「OYO LIFE」(革新的賃貸住宅サービス)

スマホひとつで手続きが完結する初期費用O円の賃貸住宅
〜不動産テックで賃貸住宅の新たなビジネスモデルを創出〜

2019.11.21 facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
スマホで手続き完了!初期費用0円
賃貸住宅の障壁を徹底的に解消
 賃貸住宅を借り、新たな生活環境を整えるには多大な労力とお金が必要だ。
 ネットの不動産情報サイトで希望するエリアの不動産会社を探し、実際に訪れ、紹介してもらった物件を内見する。入居には保証人を立て、数カ月分の初期費用を用意し、審査を通ってからも、不動産会社から重要事項説明を受けなければならない。鍵を受け取ったら、ガスや電気、インターネットを開設し、生活に必要な家具や家電を買い揃えなければならない。
 住み始めた物件が気に入らなくても、引越しするには新たな物件探しの手間と初期費用が必要だ。荷物が増えているので、引越し代もかかる。かといって住み続けていれば、契約期間ごとに更新料を払わなければならない。
 「OYO LIFE(オヨ ライフ)」は、こういった賃貸住宅に様々な障壁を徹底的に解消し、革新的な賃貸住宅サービスを構築した。
 
OYO LIFEでは1週間以上かかっている入居までのプロセスを大幅に短縮するとともに、入居者の引越しコストを激減させた。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 OYO LIFEでは、ウェブサイトに数多くの賃貸住宅物件を掲載している。気に入った物件があれば、PCやスマートフォンから予約を入れて、契約手続きを開始。早ければ30分で完了する。携帯電話番号、運転免許証、クレジットカードの情報から与信審査が行われ、営業日1日で審査の結果が通知され、翌日からは入居が可能となるのだ。
  敷金、礼金、仲介料などの初期費用は不要である。つまり、初月の家賃を払えば、多額の初期費用を用意することなく、契約できるのである。月々の家賃はクレジットカード払いなので、ポイント加算のメリットも享受できる。
  OYO LIFEのサイトに掲載される物件情報が、従来の賃貸住宅情報サイトと異なるのは、部屋の写真にベッドやカーテン、テーブル、エアコン、電子レンジ、冷蔵庫などが映っていることだ。OYO LIFEでは、生活に必要な家電や家具があらかじめ設置されてある部屋を数多く取り揃える。さらにWi-Fi機器も設置され、インターネット環境も整備されているのだ。
  入居者は電気、ガス、水道、インターネットなどの開設手続きをする必要はない。OYO LIFE側ですべて手続きを済ませているので、入居の当日から利用できるのである。
 
OYO LIFEのウェブサイトでは物件を写真入りで紹介。写真のイメージ通りの部屋に入居できるので、利用者は内見をせずに契約をしている。
出典:OYO LIFE ウェブサイトhttps://www.oyolife.co.jp
 
 OYO LIFEのサイトに表示される家賃には、水道光熱費とインターネット接続料も含まれている。定額なので収入に合わせた生活設計も立てやすい。
 入居の契約期間は31日以上。数カ月で退去する場合でも別途費用は不要である。OYO LIFEの別の物件に転居すれば、スマホで完結する簡単な手続きで新たな初期費用なしで引っ越しができるのだ。家具家電も運ぶ必要がないので引っ越しの費用も最低限に抑えられる。

世界第2位のホテルチェーンOYOが
注目したのは日本の賃貸住宅市場
 この革新的な賃貸住宅サービスを実現したのは、OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社である。大手ポータルサイトのYahoo! JAPANを運営するヤフー株式会社(現:Zホールディングス株式会社)とインド発のホテルチェーン運営会社であるOYOの合弁会社として平成30(2018)年7月に設立された。平成25(2013)年5月に創業した︎OYOは令和元(2019)年10月時点で100万室を展開する世界2位のホテルチェーンに成長している。
 「インドのOYOも、恵まれない環境で寝泊まりしている人たちの住居に関する問題を解決したいというミッションがあります。日本でも賃貸で住宅を借りるには初期費用が高く、保証人が必要など様々な障壁があります。その障壁を取り除き、お客様に便利で快適な住環境を低価格で提供したいという思いからOYO LIFEが生まれました」
 こう説明するのは、OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPANの東京ゼネラルマネージャー、種良典氏である。OYO LIFEの事業開発の責任者を務めるとともに、1都3県のOYO LIFE事業を統括する幹部社員だ。
 
OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPANの東京ゼネラルマネージャー、種良典氏。 マッキンゼー・アンド・カンパニー(東京、NY)にてコンサルティングに従事した後、ベインキャピタル(東京)にて、バイアウト投資と投資先の経営などに関与。2019年6月に現職に就任。
 
 賃貸住宅サービスであるOYO LIFEはOYOグループの新規事業である。日本発の事業となりインドや他のアジアでも展開されている。
 日本への進出に際し、OYOではホテル事業ではなく、賃貸住宅事業に着目した。東京は世界最大の都市圏人口を擁するメガシティだ。住宅の賃貸率も4割と世界的にも高い比率であり、巨大な賃貸住宅市場が形成されている。OYOでは世界最大の賃貸住宅市場である東京に着目し、賃貸住宅サービスの新規事業、OYO LIFEを立ち上げることにした。OYOでは、日本での成功事例をグローバルに展開することを視野に入れている。

「一時使用目的賃貸借契約」を活用し
スマホで完結する契約を実現
 OYO LIFEは、「Quality Living Space」の実現をミッションとして掲げる。
 
OYO LIFEの掲げるミッション「Quality Living Space」。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 Quality Living Spaceとは、「便利なロケーション」「快適な住体験」「リーズナブルな価格」という3つの要素を集約したフレーズである。OYO LIFEは、「リアルエステート(不動産)」「ホスピタリティ(顧客サービス)」「テクノロジー(情報通信技術)」の掛け算でミッションを実現することに挑戦しているのだ。
 では、具体的にOYO LIFEは賃貸住宅の革命的なサービスをどのように実現しているのだろうか?
 まず、契約形態である。OYO LIFEは不動産オーナーから「普通借家契約」で部屋を借り上げる。普通借家契約は通常2年から3年の契約だが、基本的には自動更新されるのが特徴だ。OYO LIFEでは、長期での借り入れを想定して、オーナーから住宅を借りるのである。
 一方、住宅を借りるユーザーはOYO LIFEとの間で「一時使用目的賃貸借契約」を結ぶ。通常、賃貸住宅を借りる場合は、「普通借家契約」を結び、仲介業者を活用すれば、契約時には重要事項説明が必要となる。一時使用目的賃貸借契約では、仲介業者を活用しないため、この重要事項説明が不要となることから、スマホによるオンラインでの契約が可能となっているのだ。OYO LIFEでは、各関係省庁とビジネスモデルについて理解を得るための会合を開いている。
 OYO LIFEで住宅を借りる場合、31日以上の契約が必須となる。31日未満の場合は「旅館業法」の定める「宿泊」となる。民泊など旅行者への宿泊を前提としていないことを契約で定めることで、物件を提供するオーナーは長期的な賃貸を前提とした住宅用途の利用であると安心できるのである。
 
仕入れと広告のコストを削減し、
初期費用0円など利用者負担を抑える
 OYO LIFEは初期費用0円で、家具家電付きの部屋を家賃と定額制の水道光熱費などの共益費を支払うことで利用できる。なぜ、それほどリーズナブルにできるのだろうか。
 OYO LIFEでは、不動産オーナーの物件を法人契約で一括して借り上げ、契約期間中の家賃を保証するため、通常の家賃相場よりも価格を抑えられる。部屋を確保すると、OYO LIFEでは1部屋あたり数十万円の投資を行い、家具、家電、Wi-Fi設備などを設置する。家具や家電は東南アジアでOEM製造するなどして、大量に仕入れ、2カ所の倉庫で保管している。不動産と家具家電の両方で仕入れ価格を抑えるコストダウンによって、初期費用0円を実現しているのだ。
 「OYO LIFEで表示される月額家賃が通常の相場よりも高いと感じる方もいると思います。しかし、数カ月分の初期費用、家具家電の購入費、さらには月々の水道光熱費やインターネット接続費を月々で割っていけば、実質の家賃と居住コストはOYO LIFEの方が安いのです」(種氏)
 現在、Yahoo! JAPANのポータルサイトを開くと、「ショッピング」「トラベル」「ニュース」などのサービスのカテゴリーのなかに、「OYO LIFE」が表示されている。日本最大級のポータルサイトのトップ画面にサービスが表示されることの広告効果は絶大だ。OYO LIFEにとって、Yahoo! JAPANは親会社であり、このサービス表示は無料で行われている。
 
令和元(2019)年6月5日、Yahoo! JAPAN(現:Zホールディングス株式会社)との連携によって「主なサービス」の欄にOYO LIFEが掲載されるようになった。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
“OYOへの貸し出しは無料広告”
賃貸住宅の価値を上げるOYO LIFE
 ここまでOYO LIFEのコスト圧縮の手法について見てきたが、種氏は「不動産オーナーにとってもOYO LIFEに物件を貸すことはメリットになります。OYO LIFEの存在意義は、通常では客付けが難しい部屋も販売できるようにすることですから」と語る。
 前述の通り、OYO LIFEは長期間の賃借を前提として契約を結ぶので不動産オーナーは安定した賃貸収入を得られる。借り上げた部屋には家具や家電、Wi-Fi設備などの投資を行い、物件のバリューアップを行う。室内のきれいな写真を撮影して、採寸して、OYO LIFEのサイトに掲載し、オンラインで販売する。さらにはYahoo! JAPANとの連携など高いアクセス率によって、より多くの人々に物件を紹介できるのだ。
 実は、OYO LIFEに1室でも部屋を提供すると、物件のマンションそのものの検索数がアップする。OYO LIFEのサイトには、紹介する物件のロケーションだけでなく、マンション名も掲載する。入居を検討する人々の多くは、物件の賃貸条件を比較するために他の不動産会社の募集条件についても検索するので、結果として賃貸住宅情報サイトでの検索率も上がり、その物件の認知度がアップするのだ。
 
OYO LIFEの物件写真例。家具の配置や写真撮影もOYOが行う。スタイリッシュなイメージは物件そのものにとってもプラスだ。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 「OYO LIFEに貸し出すことは、無料の広告を出稿するようなものです。すべての部屋をOYO LIFEに提供しなくても構いません。結果として、以前は借り手のいなかった部屋が埋まって、空室率が下がり、不動産オーナーにメリットが生まれるのです」(種氏)
 OYO LIFEではスタート時に築20年以内としていた対象物件を35年に引き上げた。35年といえばバブル期に建てられたマンションであり、不動産オーナーにとっても老朽化が気になる物件だ。そういった築古物件でも入居者を獲得することにチャレンジしたいとOYO LIFEは考えているのである。
エンジニアリングの内製化で
セールもできるシステムを構築
 OYO LIFEでは、テクノロジーを投入することで、前述の「Quality Living Space」を実現している。
 「日本の不動産業界の課題として、テクノロジーの導入が遅れていることが挙げられます。物件の獲得、管理、販売、顧客サービス、そしてデータベースの構築。テクノロジーの力を使って業務を効率化し、顧客の利便性を高めていきたいと考えています」(種氏)
 では、どのようにテクノロジーを活用しているのだろうか?
 まず、利用者に対しては、オンラインで賃貸物件を販売し、スマホですべての手続きが完了するようにしている。賃貸契約が自社サイトで行われるだけでなく、物件掲載、検索、契約手続き、与信審査、退去・転居の手続きまでがサイト内で完結させている。それは同時に、膨大な数の予約と空室管理を円滑に行うシステムが構築されていることを意味する。
 OYO LIFEのシステムの秀逸さを物語る事例がある。OYO LIFEでは令和元(2019)年9月25日に「OYO ビッグセール」を行なった。24時間限定で都内の92室を家賃5万円という設定で売り出したのである。結果はわずか1時間での完売である。「賃貸住宅は衝動買いするものではない」という不動産業界の常識を覆す事例だが、このセールが実現したのは、物件管理から契約手続きまでを統合し、殺到するアクセスを円滑に処理するOYO LIFEのシステムがあるからこそなのだ。
 
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
現場で物件のデータを入力し
家賃査定を行うアプリを開発
 OYO LIFEでは業務の効率化にもテクノロジーをフル活用している。
 現在、OYO LIFEでは急ピッチで物件数を増やしているが、物件獲得を担当するスタッフはスマートフォンに独自の業務アプリをインストールしている。
 オーナーとの交渉で物件の引き合いが生じた時、担当者は物件の立地や広さ、方角、構造、築年数、階数などのデータを、そのアプリに入力する。そのデータはOYO LIFEのクラウドに転送され、不動産オーナーに提示する賃貸借条件が自動的に算出されるのである。
 通常の不動産会社であれば、ベテラン営業マンが経験によって家賃を算定し、上司の承認を受けて金額を決定する。OYO LIFEでは急速にスタッフを増やしているので、不動産獲得の経験値が異なっても対応できるように、スマートフォンとAIによって金額を弾き出す業務アプリを開発したのだ。交渉時に時間を置かずに現場で条件を提示できれば、当然のことながら、成約率は大幅にアップするのだ。
 現在は社内にいる不動産業のプロが算出された賃料などを確認し、最終判断を下しているが、今後はAIにさらなる学習をさせながら、より精度の高い算出システムも構築していく考えである。
 こういった賃貸住宅のデータは物件審査に使われるだけでなく、不動産オーナーとの契約書の自動作成、契約後のサイト掲載などにも活用されている。つまり、OYO LIFEは物件の獲得交渉業務を通じて、データを同じフォーマットでデジタル化することで業務の劇的な効率化を成し遂げているのだ。こうした書式の統一されたデータの集積は、賃貸住宅のデータベースの構築を意味する。
 「一般的な賃貸住宅情報サイトはあくまで広告媒体ですから、今、この瞬間にどの部屋が貸し出されているかは把握できません。賃貸住宅のリアルなデータベースとしては機能していないのです。一方、OYO LIFEは物件獲得条件から入居者の利用時期までを含む巨大なデータベースを構築しています。賃貸住宅のデータベースが構築されていない日本の不動産業界において大きなインパクトになると思います」(種氏)
 OYO LIFEが不動産業界では前例のないテック化を実現している背景には、徹底したエンジニアリングの内製化がある。
 現在、OYO LIFEには約500名のスタッフが在籍しているが、エンジニアの人材獲得に力を入れている。また、OYOの母国であるインドにも日本のシステム開発専属のエンジニアが日本とほぼ同数の体制でシステムの構築、改善に従事しているというのだ。
 
OYO LIFEから生まれる
賃貸住宅に関する新たな行動
 家具家電の購入が不要なサービスから開始されたこともあり、OYO LIFEのメインユーザーは現在、男女を問わず若い世代が中心だ。とりわけ、初めて住居を賃貸する層が多く利用している。
 OYO LIFEを支持するのは、従来の不動産賃貸では見られなかった2つの行動が顕在化していると種氏は指摘する。
 ①家具を持たない:実家に住んでいた人が就職や進学で部屋を借りる際、従来であれば家具家電を一式揃えていたが、OYO LIFEの登場によって、家具を持たないという行動の変化が表れた。
 ②不動産会社に行かない:従来、賃貸物件はエリアの不動産会社で探し、契約するのが常識だったが、OYO LIFEの登場によって、部屋探しはスマホで済ませるという行動の変化が表れた。
 こういった行動に合致するのが、住居の賃貸歴の浅く、新しいサービスを積極的に利用する若い世代なのである。さらに若年層はシェアリングエコノミーに共感する世代だ。モノや空間は「所有」せずに「共有」することに抵抗を感じず、モノを持たないことに美徳を感じる。そういった世代にとって、OYO LIFEは価値観に合致する「初めての」賃貸住宅サービスだと言えるだろう。
 
OYO LIFEのスマートフォンのアプリ画面。スマホひとつで完結する手軽さが若い世代の支持を得ている。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 「促したいのは、OYO LIFEという住宅プラットフォーム上での移動です。OYO LIFEの特徴は気軽に引っ越せること。ライフスタイルや仕事の変化に合わせて、好きな街、好きな部屋に移動していってほしいです。実際の事例で、都内で1カ月ごとに住み替えをされた方もいました。こういった自由な住み方が増えていくといいですね」(種氏)
 一方で外国人の割合はどうだろうか? 日本は諸外国に比べて、外国人が住居を借りるのが難しい国だと言われる。
 「9月末に英語のサポートページを立ち上げばかりなので、現状では外国人の入居者比率はとても低いです。留学生など外国人にニーズがあることは分かっていますが、OYO LIFEが提供したいのは日本人に向けた新たな賃貸住宅サービスです。ただ、今後は徐々に外国人の方々のニーズにも応えていければと思います」
 
OYO LIFEでは利用者の希望によって賃貸住宅を提案する「お部屋探しコンシェルジュ」サービス開始を令和元年(2019)年10月23日に発表。日本語に加え、英語での対応も同時に開始した。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 また、OYO LIFEでは法人契約も受け付けている。転勤や長期プロジェクトで社員の住居が必要となる企業にとってもOYO LIFEは利便性の高いサービスである。現状は個人ユーザーの利用に比べると圧倒的に少ないが今後は広がりが見込める分野である。
住にまつわることはOYO LIFEの
インターフェースで解決したい
 OYO LIFE入居者にとっての、もうひとつのメリットは「OYO PASSPORT(オヨ パスポート)」である。
 OYO PASSPORTは、生活関連のサブスクリプションサービスである。ファッションレンタル、家事代行、ホームセキュリティ、動画や音楽の配信サービス、カーシェアなど100社以上の企業と提携し、入居1カ月は無料、もしくは割安で利用することができる。
 
100社以上と提携しサブスクリプションサービスを提供する「OYO PASSPORT」
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 OYO PASSPORTの提供によって、OYO LIFE入居者は便利なサービスの一部をリーズナブルに享受できる。現在、OYO LIFEではOYO PASSPORTのサービス事業者から手数料を受け取っていない。だが、サブスクリプションの申し込みはすべてOYO LIFEのアプリを通じて行う。つまり、入居者にとってみれば、OYO PASSPORTを活用することで、OYO LIFEでの暮らしがさらに快適になっていくのだ。
 OYO LIFEでは現在、住宅の賃貸サービスだけを提供しているが、「将来的には『住』にまつわるすべてのサービスを提供していきたい」(種氏)と考えている。今後、OYO LIFEの物件数が増え、スケールメリットが生まれれば、そういった生活関連サービスも安く便利なものを自社で提供できると見込む。加えて、嗜好や消費傾向など利用者のデータを集積することも次のビジネスへつながっていくのである。
 「住にまつわることは、すべてOYO LIFEのインターフェースで解決できるようにする。部屋を借りるのも、クレームを言うのも、退去や引っ越しまでがすべてスマホで可能になる。デジタルで出来ることを増やしていくことがお客様の利便性を高めると確信しています」(種氏)
 
賃貸住宅市場の5%獲得を目指し
エリア拡大やサービス充実を図る
 令和元(2019)年8月末の時点で、OYO LIFEの対象範囲は1都3県(東京、神奈川、千葉、埼玉)だったが、同年10月からは大阪へ、11月からは順次、京都、兵庫、名古屋でのサービスを開始する予定だ。当面は、「人口100万人以上の都市での展開をベースに考えており、今後は、札幌、福岡へもエリアを拡大する予定」(種氏)である。
 
中部・関西エリアへの展開を開始したOYO LIFE。首都圏でのサービス充実と合わせて都市間の流動性が高まることが期待される。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 また、今は単身者向けのワンルームが主体だが、OYO LIFEユーザーの拡大と年齢アップにともなって、ファミリー向けの物件などを提供するなど、賃貸住宅の総合プラットフォームとして成長させていくことも視野に入れる。
 OYO LIFEでは利用者のニーズに応える施策を次々と打ち出している。
 令和元(2019)年9月からは入居者が自身の家具家電を持ち込める「家具家電なし」の物件の提供を開始。また、同年10月には利用者の利便性を高めるために、「家具家電なし」の物件を対象に、月額4,400円で「家具なし家電付き」に、月額6,600円で「家具家電付き」に変更できるサービスを開始した。こういった選択肢を揃えることで、より多くの人々がOYO LIFEを通じて賃貸住宅を借りられる環境を整えたのである。
 
家具家電なし物件の一例。
提供:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN
 
 また、テック化の進化にも余念がない。現在はアナログ式の鍵を使用しているため、入居者に鍵を手渡す必要がある。OYOでは、東南アジアのスマートロックの企業を買収しており、社内では実用化に向けた実験を進めているところである。鍵がスマートロック化されれば、施錠・解錠・内見も含めたすべてがスマホで完結する “究極のスマホサービス”が完成するのである。
 「スマホひとつで賃貸住宅にまつわる課題をすべて解決し、人々を住まいの制約から解放したいと考えています。OYO LIFEがインフラとして整備されれば、引越しの際に考える様々な悩みから解放されます。今、働き方も変わり、転職率も上がっています。OYO LIFEは人々が自由に移動し、都市間の流動性を高めることを後押しできるプロダクトだと思います」(種氏)
 
OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPANの東京ゼネラルマネージャー、種良典氏。
 
日本の未来像「Society 5.0」の
実現はすでに始まっている
 インタビュー中、種氏は「Society 5.0」を引き合いに出しながら、「新しい賃貸住宅サービスをデジタルの力を使いながらやっていきたい」と語っていた。
 Society 5.0とは、内閣府が掲げる日本の未来像である。フィジカル空間(現実空間)とサイバー空間(仮想空間)が高度に融合し、IoTによって取り込まれたデータがクラウドに集積され、AIがビッグデータを解析する「超スマート社会」だ。人間には見い出せない解をAIが導くことによって、新しい価値をもたらすとともに、社会の課題も解決するのである。この超スマート社会であるSociety 5.0は、スマホひとつで様々なサービスを享受できる “究極のスマホ社会”でもあるのだ。
 
Society 5.0が目指す社会。社会のニーズや課題に応じたサービスをフィジカル空間とサイバー空間の融合が実現する。
出典:内閣府 「Society 5.0」 https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
 
 既存の商習慣が強く残る不動産業界において、OYO LIFEは一足飛びにSociety 5.0を実現しようとしている。事業領域における未来像を描き、その実現のために集中的な投資を行い、短期間で圧倒的なシェアを拡大しているのだ。その「破壊的創造者」とも思える展開によって、人と住まいの新たな関係が築かれ、さらには新しいライフスタイルが顕在化していくはずである。
 そして今後は、あらゆる産業がSociety 5.0の実現を求められていく。OYO LIFEのようなダイナミックな視野でビジョンを描き、テクノロジーを活用しながらテック化を進め、かつてないビジネスモデルの構築に挑戦していく必要があるのだ。
 テック化によってOYO LIFEが引き起こそうとする破壊的イノベーションは、 “究極のスマホ社会”の実現を目指すあらゆる領域の事業者にとって、絶好のロールモデルとなるのである(了)。
 
<Data>
名称:OYO LIFE
種別:賃貸住宅サービス
サービス開始:令和元(2019)年3月28日
展開エリア:1都3県、大阪・名古屋(2019年10月より順次展開)
事業主体:OYO TECHNOLOGY&HOSPITALITY JAPAN株式会社
本社所在地:〒100-0011 東京都千代田区内幸町2-1-1 飯野ビルディング12階
会社設立:平成30(2018年)7月
代表者:CEO 勝瀬博則
ウェブサイト:https://www.oyolife.co.jp

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
会員登録されている方は、本レポートをPDFファイルでダウンロード出来ます

TOPへ