空間活用は今、“空間のクラウド化”によって大きな進化を遂げようとしている。空間のクラウド化とは、インターネットに接続された様々な実空間が端末を通じて自在に活用できるという新しい空間活用概念である。
空間がインターネットと接続されることによって、離れた場所にある実空間があたかも自空間の延長上にあるかのように、「いつでも（時間フリー）」「いくらでも（規模フリー）」「どこでも（場所フリー）」、利用ができるようになる。空間のクラウド化が、「今だけ（時間限定）」、「あるだけ（規模限定）」、「この場だけ（場所限定）」というリアル空間が持つ従来の制約を解き放ち、人々のライフスタイルに劇的変化をもたらそうとしているのだ。
“クラウド化された空間”を提供する「クラウド空間ビジネス」は、すでに様々な分野で始まっている。ワインを最上の状態で保管し、オンライン管理で好きな時に取り出してどこへでも送れるクラウドワインセラー「TERRADA WINE STORAGE」（寺田倉庫）。異なる空間で歌う誰かとクラウド上でいつでもデュエットできるカラオケサービス「うたスキ動画」（JOYSOUND）。そして、遠く離れた場所にいる大切な人の結婚式にリアルタイム参加できるVRウエディング「HUG WEDDING」（ダックリングズ）。
クラウド空間ビジネスの利用者はサービス空間とインターネットでつながっている。利用者は携帯端末（スマートフォン、タブレット、ノートPC）を持つだけで、自在にサービスを活用できるのだ。そして、サービス空間はインターネット上で無限に拡張することができる。
様々なサービス空間をインターネット経由で提供するクラウド空間ビジネス。その代表格が、“クローゼットのクラウド化”を実現したファッションレンタルサービスの「airCloset（エアークローゼット）」である。同サービスは今、女性のファッションライフに劇的な変化を起こし始めている。
エアークローゼット airClosetのスマホアプリの登録画面。スマホの操作で、クローゼットの洋服との新たな出会いが生まれる。（提供：株式会社エアークローゼット）
働く女性や子育て世代の女性は、男性が決して理解しえない深刻なストレスを抱えている。「ファッションの時間についての悩み」という調査（25~59歳）によると、「コーディネートを考える時間がない」（41.7%）、「洋服をじっくり選ぶ時間がない」（33.3%）、「流行りを追う時間がない」（12.5%）といった回答が上位に来る。「通勤用の洋服を買いに行くのは『仕事』に近い感覚」「毎朝、会社に何を着て行くかを考えるのはストレス」といった意見も聞かれる。女性たちは今、日々の仕事や家事、子育てに追われており、通勤やちょっとしたお出かけで着る洋服をゆっくりと選び、コーディネートする時間的、精神的余裕がないのだ。
こんな悩みから女性たちを解放するソリューションがairClosetだ。このサービスの最大の特徴は、自分のクローゼットが“自宅以外の別空間”に持てることだ。プロのスタイリストが会員のためにコーディネートした洋服3点が自宅に届き、月額定額制なので送り返せば何度でも借りられる。（レギュラープランの場合）3点のうちの1点はあえて意外性のある洋服を選ぶこともある。洋服を選び、買いに行き、コーディネートすることから解放され、さらにはいつもと違う自分と出会い、新鮮な感動も味わえるのだ。
airClosetでは、利用者のニーズに合わせて個人仕様のスタイリングを提供するシステムを確立した。（提供：株式会社エアークローゼット）
airClosetを具現化したのは、先端のIT技術による空間のクラウド化だ。洋服選びから配送確認までを一元管理できるスマホアプリ。ユーザーの嗜好データを蓄積し、AIとスタイリストが最適なコーディネートを導く「パーソナルスタイリング提供システム」。そして、10万着にも及ぶ洋服を個品管理し、クリーニングと検品のフローを確立したクラウドストレージによる物流である。
airClosetの３つのポイント（提供：株式会社エアークローゼット）
airClosetの会員は現在16万人以上だが、このサービスが洋服選びという時間的、精神的な苦痛から女性たちを解放していること、そして、今後は、デジタルを使いこなし、モノのシェアに抵抗感のないミレニアル世代（※）が社会の中心を占めていくことを考慮すると、爆発的に市場拡大する可能性を秘めている。
本レポートでは、空間のクラウド化によって、ファッションにまつわる女性のライフスタイルに革命を起こしたエアークローゼットについて詳細に研究をしていく。
※ミレニアル世代とは、2000年以降に成年期を迎えた、情報リテラシーに優れ、多様な価値を受け入れる傾向にある世代であり、現在の20歳代から30歳代半ばの若者たちである。
【主任研究員】山下 英子