今、「間借りカレー」が熱い。特定の店舗を持たずに、既存の飲食店の空き時間を「間借り」して、営業するカレー店である。スパイスの効いた個性的でやみつきになる味のカレーが多く、人々はSNSの情報を頼りに出店場所を探し、行列をなしている。テレビや雑誌、ウェブメディアもこぞって特集を組んでいるのだ。
間借りカレーに代表されるように、飲食店の空き時間に店舗を借りて、飲食サービスを提供する「間借り飲食店」が外食の新たな事業形態として確実に広がり始めている。夜間に開店するバーの昼の時間帯でランチ営業をするなど、飲食店舗における未活用空間の有効利用が行われているのだ。
間借り飲食店が増加する背景には飲食業を取り巻く厳しい現実がある。外食産業は今、「レッドオーシャン」と呼ばれる過当競争期に突入している。平成29(2017)年、外食産業の市場規模は25.6兆円で、20年前の平成9(1997)年と比べると約3.4兆円縮小した(※1)。
だが、外食産業への新規参入は多い。平成23(2011)年から平成27(2015年)に日本政策金融公庫から融資を受けた個人や企業のうち「飲食店・宿泊業」を開業したのは19.6%。全業種でトップに上っている(※2)。
当然、市場は飽和状態となり廃業率は高くなる。前出の日本政策金融公庫の調査では2015年時点で廃業した業種は「飲食店、宿泊業」が18.9%を占め、全業種で最も高い(※2)。
また、飲食店の廃業率は1年未満で34.5%に上り、開店1年を待たずして、3軒に1軒の飲食店が廃業している。飲食店の廃業率は3年未満で約7割、10年では約9割に上っているのだ(※3)。
日本政策金融公庫『新規開業パネル調査』(2016年12月28日発表)における開業時の業種調査では「飲食店、宿泊業」 が全業種でトップに。
また、同調査では廃業の業種も「飲食店、宿泊業」が最も多い。
飲食店は参入障壁が低い。初期投資さえできれば、経営のノウハウがなくても開店できる。だが、飲食店の新規出店には数百万円から数千万円の初期投資が必要だ。市場が飽和していることに加え、昨今の人材不足や食材の高騰、そしてコンビニなどの中食の拡大により消費額も低下している。飲食店経営は年々難しくなっているのだ。
このように不幸の連鎖が生じている外食産業に一石を投じたのが、営業している既存飲食店舗の空き時間を借りて開業する間借り飲食店という新たな経営スタイルである。
間借り飲食店の主なメリットは次の3つだ。
①数万円程度の低投資と短い準備期間での飲食店の出店が可能。
②限られた時間のみの営業なので賃料が通常の賃貸契約よりも割安。
③撤退の際も、持ち込んだ食器や看板を撤去するだけなので費用がほぼ不要。
間借り飲食店の利用者は、低投資、低コストの出店によって開業リスクを最小限に抑えて飲食業の経験を積み、自ら店舗を出店して飲食店経営ができるかを見極められるのである。
間借り飲食店のマッチングプラットフォームを提供しているのが、「軒先レストラン」である。
間借り飲食店のマッチングサイト「軒先レストラン」は外食大手の吉野家ホールディングスと空間シェアビジネスのパイオニア軒先の出会いによって誕生した。
店舗の軒先や駐車場などの空間シェアサービスを提供してきた軒先株式会社と外食大手の株式会社吉野家ホールディングスの協業によって実現した。
出店希望者は、軒先レストランのウェブサイトに登録された店舗から気に入った物件を選び、間借り飲食店を出店する仕組みである。
平成31(2019)年4月末現在、軒先レストランには200件の飲食店が登録している。この仕組みを利用し、カレー店はもとより、小料理屋、寿司店、カフェ、ラーメン店、そば店、バルなど多様な業態の間借り飲食店が誕生している。軒先レストランの登録店舗は現在、東京が9割を占めるが今後は地方にも物件を拡大し、将来的には1万店規模のプラットフォームを目指していく。
個人が融資を受けて出店し、経営が軌道に乗らず、廃業に追い込まれて借金だけが残るという不幸な事例が後を絶たない外食産業。飲食店を持ちたいという個人が既存店舗の空き時間と空間を活用する間借り営業の飲食店経営は、事業を小さく始めて可能性をスピーディに検証する「リーン・スタートアップ(lean Startup:「無駄のない起業」の意)」の好事例である。
ITによって間借り飲食店をマッチングし、間借り営業によって低リスクで飲食店経営を学べる軒先レストランが今後、外食産業における新たな起業スタイルを支えるインフラとして根付いていくことに期待したい。
本レポートでは、軒先レストランとそのシステムを利用した飲食店の事例についてレポートをしていく。
※1 NHK『クローズアップ現代+』「カレーにヒントあり!倒産相次ぐ外食に活路」(2018年12月13日放送)