「にぎわい空間研究所」は、リアル空間にしかできない新しいビジネス価値の在り方を研究します

NAKED Inc.
研究レポート
Report_Case12

NAKED Inc.

”TOKYO ART CITY by NAKED”
心にシーン<情景>を残すために

2017.08.14facebook

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
心にシーン<情景>を残すために
 ここ数年、イベントや施設の集客コンテンツとして活用されている手法に「プロジェクションマッピング」がある。建物などに映像を投射する演出手法だ。
 にぎわい空間研究所では、リアル空間のビジネスで価値を創出する新たな領域として、リアルとバーチャルが融合する「リバーチャル空間」に注目し研究活動を展開している。リアルな実空間にバーチャルなデジタル映像を投射し、両者をシンクロさせることで新たな世界観や付加価値を生み出すプロジェクションマッピングは、現段階におけるリバーチャル空間の主力形態と言える存在だ。
 このプロジェクションマッピングのムーブメントの火付け役となったのが(株)ネイキッドだ。同社はテレビ、CM、ミュージックビデオなど、幅広い分野で映像制作や演出を手がける会社であり、プロジェクションマッピングを駆使しながら企画や演出を手掛けた屋内外のイベントでは平成24(2012)年から平成29(2017)年半ばまでの約5年間で通算150万人以上を動員してきた。
 本研究所では、リバーチャル空間づくりを牽引するクリエイターとしてのネイキッドに注目し、2017年夏に開催の『TOKYO ART CITY by NAKED』を取材した。
TOKYO ART CITY by NAKED 東京ドームシティ Gallery AaMo (2017.6.16-2017.9.3)
東京の持つ魅力やエネルギーを
アート的表現で可視化する
 ネイキッドが企画・演出を手がけた『TOKYO ART CITY by NAKED』(平成29(2017)年6月16日〜9月3日、東京ドームシティ(東京・文京区))は東京という都市をテーマとしたアートイベントだ。約730㎡の会場を東京の8つのエリア(新宿、渋谷、秋葉原、東京駅、東京タワー、東京ドームシティ、東京国立博物館、お台場)で構成。それぞれの情景を、そのエリアの持つ魅力やエネルギーを可視化することでアート的に表現していった。
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
JR東日本商品化許諾済
3Dプロジェクションマッピング「KARAKURI」/国宝「洛中洛外図屏風 舟木本」東京国立博物館蔵 ©︎NAKED/NTV
 会場では、都庁など象徴的な建物の大型模型へのプロジェクションマッピング、データのビジュアル化による「東京俯瞰図」、センサー技術を駆使したデジタル落書き(グラフィティ)、山手線など都内の電車の動きを時刻表通りに再現したLEDの光のライン、東京の喧騒を表現した効果音など、様々な要素を散りばめながら変容し続ける東京の魅力が表現された。
心にシーン<情景>を残すために
ポイント①場の意味を解釈し、シーン(情景)として表現
ネイキッドではこれまでイベントを開催する土地の風土や歴史、文化を理解し、ふさわしいシーン(情景)として表現することにこだわってきた。今回の展覧会では、渋谷のスクランブル交差点のシーンが象徴的。往来する人々や自動車が動く実際のデータを解析し、スクランブル交差点で生じている「暗黙の秩序」とも言える動きをグラフィカルな映像と昇降式の照明を連動させながら、ネイキッドがイメージする情景として表現した。
心にシーン<情景>を残すために
ポイント②インタラクティブな仕掛けでエンタメ感を表現
秋葉原エリアの「ガチャガチャビル」、渋谷の交差点の自販機、それぞれに置かれた「インタラクティブゴミ箱」。さらには高架下の壁の落書きや東京をデータとビジュアルで見る「東京俯瞰図」など会場にはインタラクティブな仕掛けが数多くある。
心にシーン<情景>を残すために
ポイント③東京でのプロジェクションマッピング・イベントを追体験
展覧会場の「東京駅」「東京国立博物館」「東京タワー」「お台場」の各エリアでは、ネイキッドが実施してきたプロジェクションマッピングのミニチュア版(約 1/775〜 1/8)が展示されている。展覧会の来場者はすでに終了しているプロジェクションマッピングを追体験できる。
3Dプロジェクションマッピング「KARAKURI」/国宝「洛中洛外図屏風 舟木本」東京国立博物館蔵© NAKED/NTV
JR東日本商品化許諾済

『TOKYO ART CITY by NAKED』の主催は実行委員会であり、ネイキッドは企画と演出を担っている。クライアント案件へのコンテンツ提供にとどまらず、“by NAKED”として自社ブランドを明確に打ち出し、集客イベントにも乗り出すネイキッド。独自の路線を歩むネイキッド流ビジネスモデルを理解するべく、同社の代表であり、クリエイティブを統括する村松亮太郎氏を取材した。
心にシーン<情景>を残すために
『TOKYO ART CITY by NAKED』のオープニングイベントで挨拶をする(株)ネイキッド代表の村松亮太郎氏。
映画づくりを目指して創業し、
境界なきクリエイティブを提案
 村松氏は昭和46(1971)年生まれで、20歳代前半までは俳優として活動してきた。だが活動をしていた90年代前半と言えばトレンディドラマ全盛の時代。個性派俳優のショーン・ペンに憧れて映画の世界を志した村松氏は、世の中が自分に求めるものと、自分がやりたいことにあまりにもギャップがあると感じた。
 当時はAppleのパーソナル・コンピュータ、Macintoshによって動画制作が可能になり始めた時代。映画を作りたい一心でMacを購入し、コンピュータでの動画づくりにも取り組み始めた。平成9(1997)年10月、26歳の村松氏は映画制作を目指すクリエイティブカンパニー、(株)ネイキッドを設立。友人2人とアパートの一室での、まさに “Naked”(裸一貫)からのスタートだった。
 創業当時はとにかく売上を作るために、「カラオケビデオの制作や雑誌のデザイン……知人の年賀状のデザインや地図の制作まで何でもやりました」(※1)。当時はCGや実写など専門分野で会社が分かれていた時代。クリエイティブ全般をボーダレスで手がけると主張するネイキッドのスタイルは理解されなかった。
 だが、ネイキッドは村松氏はじめ映画が作りたくて集まったメンバーの会社。飛び込み営業などで人脈が広がり、プレゼンに参加するチャンスを得ると、商品を伝えるためのストーリー構成や映像への考え方やセンスが他社とは違うと評価され始めた。テレビや広告の仕事が受注できるようになると売上は億単位になり、会社は一気に成長を遂げた。
心にシーン<情景>を残すために
ネイキッド本社にてインタビューに応じる村松氏
 クリエイティブに特化した制作会社としてテレビ、音楽、広告の業界から評価を得る一方で、ネイキッドはあくまで映画づくりにこだわった。平成12(2000)年に短編映画『DAZE』『LIGHT MY FIRE』を、平成20(2008)年には長編映画『アリア』『ヘイジャパ!』を公開した。すべて村松氏による監督作品だ。
 だが、平成22(2010)年公開の長編映画『ランブリングハート-ラブホテルズ2-』でネイキッドは映画の制作活動を休止する。10年間にわたる映画事業は、制作から配給まで請け負うノウハウを同社にもたらしたが、一方で事業としての採算は厳しかった。村松氏は当時をこう回想する。「NAKED自体も、規模がどんどん大きくなっていて社員たちの生活だってある。商業的に成り立たない事業を継続するという選択肢は選べなかった」(※2)
 映画制作を休止する苦渋の決断はしたものの、この10年間以上にわたる経験は今に続く大きな財産をネイキッドにもたらした。その財産とは、プロジェクションマッピングを主体とした空間構成によってシーン(情景)を創出する演出手法、そして、意味のあるシーンを生み出すための立場に捉われないビジネスモデルの構築や組織づくりへの柔軟性である。
※1『SCENES by NAKED』P78(編著:村松亮太郎&NAKED Inc./発行:KADOKAWA)
※2『SCENES by NAKED』P81(編著:村松亮太郎&NAKED Inc./発行:KADOKAWA)
心にシーン<情景>を残すために
ネイキッド制作、村松氏監督の初の長編映画『アリア』(2008年公開)
心にシーン<情景>を残すために
制作休止前の最後の作品『ランブリングハート-ラブホテルズ2-』
映画づくりの延長にある “シーンづくり”
人々は心の中にある情景に価値を感じる
 平成24(2012)年12月、ネイキッドは東京駅のプロジェクションマッピング『TOKYO HIKARI VISION』の演出を手がける。東京駅の駅舎の復元が完成したことを記念して行われたイベントだ。「ミライを照らす光の旅」をテーマに駅舎が色鮮やかに変化(へんげ)するプロジェクションマッピングは話題を呼び、わずか3日間で30万人を動員した。
 村松氏は東京駅のプロジェクションマッピングを手がけて、ある実感を得た。
「映像はスクリーンの外に出たなと感じました。映像の進化はこれからかもしれない。今まで四角い枠に閉じ込められていたわけだから、枠に捉われなければ無限の可能性が広がるはず。映画もお客さんに没入してもらって体感することを提供するのが目的です。スクリーンで見せるか、リアルな現場で感じてもらうか、手法の違いでしかない。映画とプロジェクションマッピングは、『特別な体験をどう創るか?』という意味では何も変わりません」
 では、表現のメディアが、テレビや映画からリアル空間へと変わることに違和感はなかったのだろうか?
「今でもお会いする方から『東京駅のプロジェクションマッピング、感動しました!』と言われます。実際にはもう存在していませんが、その方の心の中にはあの時の東京駅の情景が確実に存在しているのです。
僕は何を作っているのか? “Scene”(シーン)を作っているという感覚がしっくりきたんですね。日本語で言うと『情景』です。人が介在する情景です。情景を人の心に残す。人々は心の中にある情景に価値を感じるのです。だから、僕にとっての『リアル空間』は 物質的な“Space”(スペース)ではありません。
シーンをつくるという意味では映画も一緒です。撮影現場に映画の世界を作って、シーンを作って撮影している。だから、プロジェクションマッピングも僕にとってはシーンづくりの行為であり、映画づくりの延長線上にあるのです」
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
主催:東京ミチテラス2012実行委員会
建物への投影から脱却した
プロジェクションマッピング
『TOKYO HIKARI VISION』はプロジェクションマッピングを世に知らしめた一方で、「ネイキッド・イコール・プロジェクションマッピング」という図式を人々に植え付けた。ネイキッドはその先入観を払拭するように、次々と新たなプロジェクトに着手していく。
 まず、平成25(2013)年10月、東京国立博物館(東京・上野)で開催された特別展『京都-洛中洛外図と障壁画の美』で、東洋館へのプロジェクションマッピングを行なった。映像のモチーフは重要文化財の「洛中洛外図屏風 舟木本」である。東京駅でのプロジェクションマッピングは建物自体が象徴的な存在だったので、それが動くように見えるだけで十分にインパクトがあった。だが、東洋館の建物としての存在感は東京駅に比べると遥かにインパクトが弱かった。
 そこで村松氏は、洛中洛外図を当時の最先端のポップアートとして捉え、図中に描かれている又兵衛という少年が当時の京都と現代の東京を行き来するという奇想天外なストーリーを設定した。カメラの視線で作品の世界に入り込むとともに、プロジェクションマッピングならではのダイナミックなエンターテイメント性の高い演出を施した。
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
協力:独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館
3Dプロジェクションマッピング「KARAKURI」/国宝「洛中洛外図屏風 舟木本」 東京国立博物館蔵© NAKED/NTV
 平成25(2013)年3月には、ダイバーシティ東京 プラザ フェスティバル広場にある高さ18mのガンダム立像のプロジェクションマッピングを手がけた。さらに、平成26(2014)年4月にはラゾーナ川崎プラザのビル壁面でプロジェクションマッピング『進撃の巨人 ATTACK ON THE REAL』を実施。同作に登場する60m級の “超大型巨人”を実物大で再現した。
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
心にシーン<情景>を残すために
© 創通・サンライズ
心にシーン<情景>を残すために
© 諫山創・講談社/「進撃の巨人」製作委員会
どちらも絶大なる人気を得るアニメ作品『機動戦士ガンダム』『進撃の巨人』で立て続けにプロジェクションマッピング・イベントを手掛けた
「次々とプロジェクションマッピングを手がけるうちに、映像を投射する対象物が建物だけではなくなっていったのです。すると、『空間を映像演出によってまるごと違う空間にしてしまえないか?』という発想が浮かんできて、新江ノ島水族館の『ナイトアクアリウム』が誕生しました」(村松氏)
リアルとバーチャルの融合で
夜の水族館という新市場を生み出す
 前述した通り、映画づくりの発想が根底にある村松氏は、自身がイメージする世界観を創り出すことに最大の関心事がある。夜間に水族館の水槽を映像で演出する『ナイトアクアリウム』の原点は、「水族館でこんなことが起きたら面白いだろうな」というシンプルな発想だった。
「どこかの水族館に頼まれて考えたわけではありません。何のコネクションもありませんでしたから、普通に水族館の電話番号を調べて、『こんなことやったら、面白くありませんか?』と営業に行きました。創業期はいつも電話で営業していたから何の苦でもありませんでしたね」(村松氏)
 ナイトアクアリウムでは、深海をテーマに水族館内の水槽や通路、展示物などにプロジェクションマッピングを行なった。水槽の手前に設置されたスクリーンに投影された鮮やかな映像。そこに魚たちのリアルな姿が重なっていく。
 かつてない神秘的な空間を生み出したナイトアクアリウムは平成26(2014)年7月20日から11月30日の4ヶ月以上にもわたるネイキッド初の長期イベントになった。
心にシーン<情景>を残すために
江ノ島水族館で開催された「ナイトアクアリウム」
©NTV/新江ノ島水族館/NAKED
「リアルとバーチャルが融合した水槽が、『うわっ!』と思わせてくれた。本当に境界線がなくなっておもしろい。リアルとバーチャルの両軸が存在していて、それを同時に楽しむことができる、ある種のバーチャルリアリティ感だった」(村松氏、※3)
 水槽の中の生物たちという「リアル」とプロジェクション映像という「バーチャル」の融合によってかつてない情景(シーン)を生み出したナイトアクアリウムは、通常、閉館となる17時から20時に「夜の水族館」という新たなマーケットを創出した。まさにリバーチャルが新たなリアルビジネスを生み出した好事例である。水族館でのリアルとバーチャルの融合は、リアルな夜景に映像を重ね、「奇跡を起こす」東京タワー展望台への企画へと発展していく。
心にシーン<情景>を残すために
©NTV/新江ノ島水族館/NAKED
※3『SCENES by NAKED』DVD収録インタビューより(編著:村松亮太郎&NAKED Inc./発行:KADOKAWA)
“by NAKED”が各地へと広がるのは
その場だけにしかない一品を創るから
 ナイトアクアリウムに続く時期に実施された『TOKYO TOWER CITY LIGHT FANTAGIA』(平成26(2014)年12月15日から平成27(2015)年2月18日)では、展望台ガラス面で「夜景とプロジェクションマッピングの融合」を実現した。
 大展望台の窓枠に幅10mにおよぶ布製の半透明透過スクリーンを設置し、そこに映像を投射した。投射映像の演出を派手にしすぎず、窓の外に広がる夜景を引き立てることで、夜景のリアルと映像のバーチャルが観る者の中で融合する演出に成功した。村松氏はその演出についてこう語っている。
「夜景は遠くにある。そして(映像の投射される)ガラス面は近くにある。同時に(目の)フォーカスは合わない。同時に見られない。だから、見る人は決して同時には見ていない。目線の動かし方をいかにガイド(誘導)してあげるか? それによって、映像を見ているつもりがふっと夜景に入る。夜景を見ているつもりが、ふっと映像に戻される。そういう計算をどれだけきちんとして設計をするか。そこが技法として考えなければならなかったところだった」(※4)
 このように、村松氏とネイキッドのチームは人々をリバーチャルな世界に引き込む工夫を次々と蓄積していったのである。
心にシーン<情景>を残すために
夜景と映像を融合させた『TOKYO TOWER CITY LIGHT FANTAGIA』。
東京タワーではライトアップが行われており照明の光がガラス面への映像投影に影響するため、様々な調整が行われた。
 ネイキッドではその後、八景島シーパラダイス、アクアパーク品川、マリンワールド海の中道などでも、水族館でのプロジェクションマッピングを手がけていく。
 また、展望台での「夜景×プロジェクションマッピング」の企画も、『CITY LIGHT FANTASIA by NAKED』『STAR LIGHT FANTASIA by NAKED』などへ進化するとともに、会場も大阪のあべのハルカス、名古屋テレビ塔、札幌テレビ塔、渋谷ヒカリエなどへと広がっていく。さらに、窓ガラスには映像を映し出す特殊フィルムを施すなど技術的な改良も重ねてきた。
CITY LIGHT FANTASIA by NAKED渋谷ヒカリエ
 水族館にしても、展望台にしても、コンテンツとノウハウを確立し、パッケージとして売ることで初期投資を回収し、利益率を上げていくのが狙いなのではと考えがちである。だが、村松氏は決して同じものではないと断言する。
「CITY LIGHT FANTASIA by NAKEDは場所によってコンテンツはすべて違います。それぞれの夜景に合わせてすべて変えるので手間はかかりますね。でも、東京駅のプロジェクションマッピングを他の建物でやっても意味がないように、展望台や水族館の映像も、その場所の物語に応じて演出を変えていかなければ、人々の心に残るシーンは生まれないのです」
心にシーン<情景>を残すために
夜の展望台に新たなる付加価値を与え、全国の展望台やビルに広がりを見せた『STAR LIGHT FANTASIA by NAKED』
あべのハルカス「STAR LIGHT FANTASIA by NAKED -HARUKAS300-」MOVIE
※4『SCENES by NAKED』DVD収録インタビューより(編著:村松亮太郎&NAKED Inc./発行:KADOKAWA)
店舗などマーチャンダイズのあり方に
新たな「かたち」を提案した『SWEETS by NAKED』
 それぞれの場所に応じた企画や演出を創出することにこだわるネイキッド。平成28(2016)年に入ると、『FLOWERS by NAKED』(日本橋三井ホール[1月8日〜2月11日]、東京ミッドタウン[7月30日〜8月31日])、さらには『SWEETS by NAKED』(表参道ヒルズ[12月1日〜平成29(2017)年1月9日])といった新たなイベントを展開していく。
心にシーン<情景>を残すために
『FLOWERS by NAKED』の会場風景
© 2016 NAKED Inc. FLOWERS冬
FLOWERS by NAKED NAKED Web Movie
 とりわけ『SWEETS by NAKED』では、映像インスタレーションによる展覧会空間の奥にスイーツブランドの特設店舗が設けられ、映像空間の中で飲食ができるという企画を実現した。
 展覧会空間を店舗のショーウィンドウと考えれば、映像の差し替えによって装飾をいくらでも変化できる店舗を実現したとも言える。もはやネイキッドはプロジェクションマッピングを制作する会社の枠にとどまらず、物販や飲食の空間のあり方に新たな「かたち」を提案する会社へと事業の領域を広げているのである。

心にシーン<情景>を残すために

心にシーン<情景>を残すために

心にシーン<情景>を残すために

幻想的な雰囲気の会場内にはスイーツの甘い香りが立ち込め、五感でスイーツを体験できる『 SWEETS by NAKED』。
SWEETS by NAKED「 powerd by tokyo」撮影動画
村民とともに“ライトダウン”を立案し
「日本一の星空」をブランディングする
 一つひとつの企画と向き合い、新たなアイデアを投入しながら、その場でしかできない空間を自身の役割を制約せずに企画・演出する姿勢を続けてきた結果、ネイキッドのビジネスのスタイルは次第にコンサルティング的になってきたと村松氏は語る。クライアントとの関係性を象徴するのが長野県阿智村だ。
「単にプロジェクションマッピングで演出をしてほしいという事ではなく、ネイキッドと一緒に村のブランディングを行なっていきたいという依頼でした。その想いに応えたいと思い、始まったプロジェクトです」(村松氏)
 長野県の南端に位置する阿智村は、環境省の実施する全国星空継続観察で「星が最も輝いて観える場所」の第1位(平成18(2006)年)に認定された。つまり日本一の星空がある村なのだ。村松氏はこれをブランディングすることを提案した。
 村松氏自身が村のブランディングディレクターを引き受け、10年後の村を見据えて、地元のキーパーソンたちと村の方向性も含めて議論を重ねた。その議論から描かれたのが、『天空の楽園 Winter Night Tour -STARS BY NAKED-』(平成28(2016)年12月3日から平成29(2017)年3月31日開催)である。
 会場の広場に長さ約6m〜12mのコンテナを8台配置し、コンテナへのプロジェクションマッピングを行なった。光と映像によるショーを鑑賞した後、参加者全員のカウントダウンともにライトアップならぬ “ライトダウン”を行う。突如、日本一の星空が現れ、体験型の星空鑑賞ツアーが始まるのである。まさに、日本一の星空を引き立てるために演出が設計されたのである。
「地元の人を巻き込んで、地元の人に面白いと思ってもらえれば、そこからシビック・プライド(地元への誇り)が生まれる。そこまで行けば単にプロジェクションマッピングのイベントをするのとは意味が違う。最近は、そういったビッグ・ピクチャー(全体像)を描く仕事が増えてきました」(村松氏)

心にシーン<情景>を残すために

心にシーン<情景>を残すために

心にシーン<情景>を残すために

『天空の楽園 Winter Night Tour  -STARS BY NAKED-』の会場の様子
全体設計を任せてもらって
事業を管理する方がやりやすい
 これまでネイキッドの様々な仕事を紹介してきたが、案件ごとにクライアントやパートナーとの座組み、ビジネスモデルはすべて異なるという。純粋に映像制作の部分を請け負う場合もあれば、自社で投資をしてビジネスとしてのリスクを共有する場合もある。ただ、企画から集客プロモーションまで、すべてを任せてもらったほうが動きやすいと村松氏は語る。
「例えば、『ナイトアクアリウム』というタイトルは僕が考えました。企画を考える時にどうやってお客さんに届けるか、つまり集客まで考えてタイトルも含めてイメージします。毎回、映画作品を一つひとつ作るようなものだから、作り手のさじ加減が重要になってくる。(仕事の分担を)どこで区切ればよいか、定義が難しいのです。全体設計を任せてもらえて、事業をまるごとコントロールできるほうがやりやすいですね」
心にシーン<情景>を残すために
『TOKYO ART CITY by NAKED』では、パックマンやゴジラなどの著作権を所有する企業も協力。また、EXILE HIROともコラボレーションし、ダンスユニットのSAMURIZE FROM EXILE TRIBEのパフォーマンスとのコラボレーションが実現。
 こういった仕事の捉え方も、映画会社として企画から制作、そして配給に至るまで自社で手がけてきた経験が大きく影響していると言えるだろう。映画では、監督がシーンのイメージを描き、俳優や技術スタッフが自分の解釈と能力を発揮しながらシーンを現実のものにしていく。天候をはじめ様々な状況に左右されるが、柔軟に対応することで監督の求めるシーンをフィルムに収めていく。創業から20年。ネイキッドは社員約120名の会社にまで成長したが、村松氏はその映画制作の現場的な感覚を現在も持ち続けているようだ。
「うちの会社は組織図が有名なんですよ。部署やチームで仕事を区切らずに、『カラーホイール』で表現します。フルカラーの色相図に仕事のジャンルを配置し、スタッフを配置する。ある人は暖色系にいるけど、『オレンジチーム』『レッドチーム』といった境目があるわけではありません。その時の状況に応じて、柔軟に動いて仕事をする。難易度は高いですね。人は自分の所属を決めたがるし、放っておくとチーム的になっていくものです」
 村松氏がカラーホイールによって目指すのは社員一人ひとりの多様性を引き出していくことだ。人間は自分の役割が決まるとその範囲で最大限の能力を発揮しようとするが、一方で異なる視点や柔軟な発想を失ってしまうことも多い。ネイキッドはクリエイティブな会社だからこそ、合理的に物事を整理しすぎないことも重要だと村松氏は考えているのだ。
「日本はこの20年間で合理化ばかり進めてきました。そして、今、クリエティビティの時代と言われている。とても無茶な話です。でも、だからこそ僕らのような従来の概念に捉われない発想のできる会社が求められているのだと思います」(村松氏)
心にシーン<情景>を残すために
 
 ネイキッドのクリエイティブを統括するとともに、会社の代表として組織づくりを担う村松氏。「僕が目指しているのはバルサ( FC バルセロナ)のような組織。基本がしっかりしていて、戦術理解に長けている。かなり難しいけど、そこを目指したい」
B to Bの展示会もネイキッドがやるなら
既成の概念を壊すところから始めたい
 最後に村松氏にこう質問してみた。B to Bの展示会でブースを制作する案件でもネイキッドが仕事をする余地はあるのだろうか?
「全然、あり得ますね。僕にとって、仕事はある意味遊び道具なんです。こんな遊び道具を貰えたから、これで何をしようか、どんなシーンを描こうかと考える。でも、まずは概念を壊すことから入るでしょうね。セオリー通りにやって、どう面白くするかよりも、まずは概念を壊すことから始めます。展示会ってこういうものだということをまずは忘れましょう。信じていることは忘れましょう、と言うでしょう。その先入観は、間違っているかもしれないから、と」
 平成24(2012)年からの約5年間で、屋外の集客装置として一気に市民権を得たプロジェクションマッピング。その背景には、既存のビジネス概念を壊してまでも、人々の心にシーン(情景)を残したいと強く願うネイキッドのクリエイティブな情熱、そしてリアルとバーチャルが融合する場を創出する飽くなき探求心があったのである。
 リアル空間の可能性を拡張するプロジェクションマッピングの世界は、今後も様々なリバーチャル空間を創出してくれることだろう。にぎわい空間研究所では、その進化のプロセスを継続的に研究していきたと考えている。(了)
<Data>
名称:TOKYO ART CITY by NAKED
開催日:平成29(2017)年6月16日(金)〜9月3日(日)
入場時間:11:00~18:00(6月16日~7月21日)、10:00~20:00(7月22日~9月3日)
開催地:東京ドームシティGallery AaMo(ギャラリーアーモ)
種別:アートイベント
主催:TOKYO ART CITY by NAKED実行委員会
後援:渋谷区、(一社)渋谷区観光協会、(一社)新宿観光振興協会
特別協力:(株)バンダイナムコエンターテインメント、キヤノン(株)、キヤノンマーケティングジャパン(株)
協力:インクリメントP(株)、(株)キャドセンター、(株)グローバルネットプランニング、(一社)渋谷駅前エリアマネジメント協議会、(株)シブヤテレビジョン、東京スカイツリー®、東京タワー、(独)国立文化財機構東京国立博物館、(株)パスコ、パナソニック(株)
コンテンツ協力:(株)AWA、(株)LDH JAPAN、(株)タカラトミーアーツ、東宝(株)
機材協力:(株)ファインリンクス、ブラックマジックデザイン(株)
チケット:当日券 大人1,600円、中人(中高大学生)1,400円、小人(小学生)900円、大人ペアチケット3,000円、ファミリーチケット2,300円

株式会社ネイキッド
平成9(1997)年10月、村松亮太郎を中心に、映像ディレクター、デザイナー、CGディレクター、ライターなどが集まり設立されたクリエイティブカンパニー。メディアやジャンルを問わず、映画、広告、TV、インスタレーションなど様々なクリエイティブ活動を続ける。また、近年はプロジェクションマッピングを始めとした様々な技術や美術造作、演出を組み合わせ、光を使った空間の総合演出を手がけている。現在、自社が企画・演出・制作を手がけたイベントやショーが通算150万人以上を動員している。

記事中の情報、数値、データは調査時点のものです。
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