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 研究Report_01

信州の価値を銀座で磨く
〜首都圏での情報拠点づくりとブランド戦略〜
Vol.02

銀座NAGANO(長野県) 

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
 
 

ブランドづくりへのこだわりが出会わせてくれた
銀座4丁目交差点から徒歩60歩の新築ビル

 
 平成25(2013)年に入ると、熊谷氏は毎週のように、長野県庁から銀座に出張し、入居するビル探しに奔走した。次第に銀座特有の不動産事情も理解していった。この街では、物件のほとんどを特定の数社の不動産会社が取り扱っているのだ。熊谷氏は紹介されたビルに足を運び、内覧をしながら「ここで信州のブランドを磨けるのか?」と自問をした。これはという物件があると、阿部守一知事も足を運び、意見を交わした。しかし、なかなか納得のいく物件には出会えなかった。
 
 こだわりを持ち、粘り強く探し続ける姿勢によって、熊谷氏は銀座の不動産会社の共感を得た。「銀座4丁目交差点近く、すずらん通りに新しいビルが建つらしい」。そんな情報が熊谷氏の元に舞い込んできた。8階建てのビルだったが、オーナーの意向では、3階にはレストランを入れ、上層階にはバーが入る計画だった。借りられるのは1、2階と4階。ロケーション、フロア数ともにコンセプトを具現化するに絶好の条件だった。しかし、すでに入居を検討していた企業があった。熊谷氏は正に祈る気持ちで状況を見守った。
 
 そして、交渉していた企業が条件面で折り合わないとの不動産会社からの一報を受けた次の瞬間に、契約の交渉を申し入れたのだ。早速、ビルオーナーに会いに行った。ビルの事業会社の担当者は30代。そして設計デザインを担当するアーティストたちも30代という若い感性のチームが手がける物件だった。こうして、銀座4丁目交差点から徒歩60歩の場所に信州のブランド磨きにうってつけのビルを得たのである。「ブランドづくりは、こだわり」という信念が生んだ成果であった。
 
 ちなみに、3階には信州の食材を生かす和食レストランの「銀座 真田」が入った。運営する㈱フォンスは話題の和食レストラン「酢重ダイニング」を手がける会社だ。経営者、小山正氏は軽井沢町の出身である。当初、ビルのオーナーからは「3階のテナントには気に入ったレストランを入れたい。長野と関係のない店が入るかもしれないが勘弁してほしい」と言われていた。熊谷氏は快諾しながらも、長野県の関係の会社を紹介してもよいかと提案し、いくつかの店舗情報や出店希望者を紹介。検討期間中にはビルオーナーや設計チームとともに冬の信州を旅してその魅力を紹介する機会も得た。ビルオーナーのもとには長野関連以外の候補店舗も数多く集まったものと思われるが、極寒の信州に息づく素晴らしい文化を体験する中でビルオーナーは決断した。こうして、幸運にも1階から4階のすべてが信州ブランドで埋まることになったのだ。
  



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ライフスタイルの紹介を通じて
商品の裏側にいる「人」を伝える

 
 いよいよ銀座NAGANOの具体的な設計が始まった。施設のデザインと設計を担当したのは、㈱フジヤ。コンペには大手広告代理店も参加したが、熊谷氏いわく「我々の抱える課題を解決してくれる柔軟な対応力」が評価のポイントだったという。繰り返しになるが、銀座NAGANOは単なるアンテナショップではなく、ブランド発信・ブランド磨きの拠点だ。
 
「ブランド発信するのに、商品販売だけは限界があると感じていました。商品だけで注目を集め続けるには、常に新製品で話題づくりをしなければなりません。しかし、開発できる商品には限りがあります。では、何によって信州を伝えるのか。やはり、商品の裏側にあるライフスタイルであり、それを育んでいる信州の人々との触れ合いであると考えたのです」
 
 そこで、1階のショップスペースはエントランス側のフロアには両サイドの壁に信州を表現する「和」と「洋」のライフスタイルを紹介した。米、味噌、甘露煮、そば。パン、ジャム、コーヒー、ドレッシング、ジビエ。昔ながらの日本の田舎と、軽井沢のように洗練された避暑地という、ふたつのライフスタイルをディスプレイによって表現したのだ。商品を詰め込まず、しっかりと見せる展示にこだわった。
 
 その両側の壁に囲まれるように、中央にはワインバーのカウンターがある。これは、「囲炉裏」を表現したものだ。人々が集い、地元の旬の食材とともに酒を呑み、団らんするというシーンを現代風にアレンジしたのである。
 
 ショップスペース全体は黒を基調とした重厚な空間。これは冬越しの食材がたっぷりと詰まった土蔵のイメージに基づいている。内装には地元の古材を使い、カウンターの天板には漆を施してある。だが、そんな由来の説明書きはどこにもない。とにかく感覚的に信州の心地よさを感じてもらいたかったという。
 
「みなさんがご存じの温かい田舎としての定番の信州と、首都圏の人々がスタイリッシュに感じるおしゃれな信州の絶妙なバランスを攻めました。銀座を訪れる感性の高い人々が『ああ、信州って住んでみたいな』と思える空間です。長野県には今、30代から40代の子育て世代も多く移住しています。その世代にとっても、リアルに感じられる信州のライフスタイルを表現したかったのです」
 
 店舗の奥に行くと壁一面に特産品が並ぶ。それぞれのアイテムを、これでもかというぐらいに豊富な種類を品揃えしているから、どれを選ぼうか楽しくて仕方がない。ショップとして、選ぶ喜びを提供することも忘れていないのだ。
 

1階ショップスペースの奥側には、ワイン、日本酒、麺類、
お菓子、乳製品などがぎっしり詰まっている。


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

イベントで県内市町村の文化を紹介
自分たちの「価値」を知る機会に

 
 前述の通り、銀座NAGANOでは商品を売るだけでなく、背景にいる人々や風土との触れ合いによってブランド発信をする方針を決めた。つまり、「フェア(即売会)」ではなく、「シェア(共感・共有)」なのだ。1階のショップで信州の食文化に共感した人々をいかに引き込むか? その役割を果たすのが2階である。
 
 自由に出入りできる2階のスペースでは連日、長野県内の自治体や関連する団体・企業のイベントが開催されている。時間帯で区切って、1日に2、3本の企画が行われていることもある。ショップで信州に関心を持った人々が、イベントを通じて人と出会い、信州を学ぶ機会が用意されているのだ。
 
 驚くのはそのプロデュースの手腕である。イベント開催の2カ月ほど前になると、主催者は内容の概要を提出する。多くの主催者は「○○町、まるごとフェア」といったベタなタイトルで、これでもかというぐらい盛りだくさんの内容を企画する。地域の独自性は大切なのだが、ターゲットとする銀座に足を運ぶ人々に響かなければ意味がない。
 
 その企画を基に、銀座NAGANOのスタッフは自治体の企画者たちと一緒にイベントの内容を洗練させていく。首都圏の人々に伝わるタイトルは何か? 人々の心に残るテーマと表現方法とは何か? 銀座NAGANOは長野県内の自治体がイベントを通じて自らのブランド発信を磨く修行の場でもあるのだ。
 
「有料のイベントも数多くありますが、料金も主催者に自由に決めてもらっています。長野県の人々は、自分たちの特産品が都会でどのように評価されるのかを直に学ぶ機会があまりありません。ですから、自分たちで値付けをして、銀座という消費地でどのように評価されるかを実感するのです。そこから学ぶことは大きいですね」
 
 興味深いのは、貸出時間を細かく分けていることだ。10:30〜13:00、13:00〜15:00、15:00〜17:00、17:00〜20:00という4区分。イベント利用者は昼食やティータイム、夕食など企画内容に合わせて時間帯を選ぶ。1日貸しではないので、イベントが終了すると、すぐに片付けなければならないし、その間にも1階から続々と客が上がって来る。準備や片づけの様子を見て「なんだ、何にもやってないんだ」とがっかりされてしまっては信州の、そして自らの地域のイメージに傷がつくので、必死に片付けるのである。そんな緊張感もまた、イベントスペースの活気づくりの要因だと熊谷氏は指摘する。
 
 

 
 
 

2年目は攻めの年
時間と空間をつなぎ、絆を結ぶ

 
 ショップで信州のライフスタイルに共感し、イベントスペースで信州の風土・文化を学びながら、その素晴らしさをシェアしてもらった人々が次に向かうのが、4階の移住交流・就職相談コーナーである。波及効果のほどはいかがだろうか? 平成26(2014)年10月からの1年間で、同コーナーに寄せられた相談件数は1,489件。有楽町の東京交通会館にある「ふるさと回帰センター」での相談件数と合わせると2,200件を超え、前年を上回った。
 
 来場者は1年間で80万人。長野県関係者以外の人々は開業当初は約半分だったが、現在は3分の2ほどに増えているので、周知は確実に進んでいると言えるだろう。また、大手デパートからも打診があり、信州の特産品フェアなどでも協力し合っていく企画も実現しそうだ。所長である熊谷氏は「1年目はこの施設を周知する期間でしたが、2年目からは攻めていきたい」と語る。
 
「例えば、大豆づくりの企画です。長野県に来てもらって、地元の人々と一緒に農作業を体験してもらいます。収穫した大豆を銀座に持って来て、今度は豆腐づくりや味噌づくりを体験していただく。銀座と長野の時間と空間をつなぐ。一歩踏み込んで、みなさんの心と長野県の絆を結んでいきたいですね」
 
 ブランドを発信し、磨き続ける銀座NAGANO。その想いの強さは決して熊谷氏ひとりだけのものではない。ショップのスタッフのほとんどは長野県出身者、もしくは信州のファンだ。マネージャーは大手デパート出身の店舗運営のプロだが、やはり大の信州ファン。こういったスタッフが意見を交わしながら商品を決め、陳列を決める。その絶妙なバランスこそがショップに来る者を飽きさせない味を出す。熊谷氏は最後にこんなエピソードを教えてくれた。
 
「ある時、2階のイベントが販売会になりそうな時がありました。すると、ショップのスタッフが『所長、これじゃあ、「シェア」じゃなくて、「フェア」じゃないですか? コンセプトからズレているんじゃないですか!』と怒られました。こういう、『こだわりの共有』こそがブランドを磨いていくと私は思います」
 

 
 
 

 
 

<Data>
名称:銀座NAGANO~しあわせ信州シェアスペース~
種別:店舗
主催:長野県
開業:2014年10月26日
営業時間:10:30~20:00(定休日:年末年始)
所在地:東京都中央区銀座5-6-5 NOCO  1階、2階、4階
入場:無料
延べ床面積:392㎡
イベント内容:アンテナショップ・飲食カウンター(1階)、イベントスペース・観光情報センター・カフェ(2階)、移住相談コーナー・コワーキングスペース(4階)
来場者数:約80万人(2014年10月26日からの1年間)
基本設計・実施設計・設計監理:㈱フジヤ
施工:北野建設㈱
ウェブサイト:http://www.ginza-nagano.jp