研究Report_08

新たな祭、ロックフェスを創る
〜過疎地の障壁を突破し、1万人以上を集客〜
Vol.02

男鹿ナマハゲロックフェスティバル(音楽イベント)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
写真提供協力:男鹿ナマハゲロックフェスティバル実行委員会
 
 

(写真提供:男鹿市観光協会)

 

2日間開催で実現した公式宿泊ツアー
素泊まりの宿泊は施設のニーズにも合致
 
 男鹿フェスのミッションは、フェスの開催そのものではなく、地域の活性化にある。始めた頃は地元へのメリットが明確にならなかったが、2日間開催になったことで明らかな経済効果が出始めた。宿泊である。実行委員会では男鹿市観光協会と連携し、公式宿泊ツアーを企画。観光協会が市内のホテル、旅館、民宿に声をかけ客室を確保。予約窓口も観光協会で担った。

 
   以来、毎年公式宿泊ツアーは開催されており、平成28(2016)年は12カ所の施設に256名が宿泊した。イベントの前後の宿泊も合わせると延べ291人分の宿泊があった。また、直接宿泊施設に予約を入れた来場者もいたので、実際の宿泊規模はさらに大きい。公式宿泊ツアーの宿泊施設のなかには男鹿半島西海岸の戸賀地区の民宿もあり、会場からも遠方であることから公式ツアーに組み込まれていなければイベントの参加者の宿泊確保は難しかったと言える。
 
   フェスの終了は夜9時。利用客のほとんどが素泊まりか、朝食のみである。観光協会の専務理事、佐藤豊氏は「男鹿市内の宿泊施設も人手不足が深刻。客室が空いてもサービスが追いつかずお断りすることもあります。7月末はハイシーズンの始まり。素泊まりや朝食のみの宿泊で手間がかからずに客室が埋まることは有り難いことです」と状況を説明する。男鹿フェスによるイベント参加者の宿泊は地元の観光業のニーズにも合致しているようだ。

 

観光資源に恵まれた男鹿市。男鹿フェスの前日、翌日に市内を観光する来場者も増えている。
(写真提供:男鹿市観光協会)

 
 
 
地元限定のチケットを発売し
男鹿への誘客を創出する
 
 男鹿フェスでは一般発売に先行して、市内2カ所の観光協会窓口でチケットを販売する。先行販売には18歳以下の若者向けのチケットも含まれている。これらのチケットは郵送していない。チケットを買うためにぜひ男鹿に足を運んでほしいという思いから生まれたルールであり、男鹿フェスはここでも地域への誘客に貢献しているのだ。また、観光協会にとってチケットの販売手数料は大きな収入源になっている。
 
 平成27(2015)年からは、車中泊をする来場者のために、日帰り温泉施設「温浴ランドおが」が営業時間を夜11時まで伸ばしてくれた。駐車場には仮設トイレを設け、車中で宿泊する環境を整えた。結果として、温泉施設の利用者は通常の週末よりも100名以上伸びた。これも観光業への波及効果の一つだ。
 
   実行委員会のアンケートによると、平成28(2016)年開催の男鹿フェスにおいて男鹿市からの来場客は全体のわずか4.3%である。最も多いのは27.2%の秋田市。男鹿、秋田の両市以外の秋田県内が26.1%を占める。秋田県内の合計は57.6%だ。また、その他の県では、宮城県11.4%、岩手県8.4%、山形県6.6%、青森県6.3%となり、秋田県以外の東北エリアの合計は32.7%になる。
 
 こういった数字を合計すると、男鹿フェスでは実に来場者の95%以上を男鹿市以外から集客し、秋田県外からの集客も4割以上に上るのだ。ちなみに、アンケートでは熊本、沖縄からの来場者も確認されている。
 
 

男鹿フェスは秋田県を含む東北全域をマーケットに、広域からの集客を実現している。

出典:実行委員会のアンケート(平成28(2016)年開催の男鹿フェスVol.7)より作成
 
 
 上記のアンケートからも分かる通り、東北各県からの来場も大きな割合を占め、宿泊の需要は確実にあるのだ。アンケートによると、宿泊先を「秋田市」と答えた来場者が回答者の約6割に上った。一方の男鹿市は2割強である。今後の課題は、秋田市に宿泊している需要をいかに男鹿市に取り込んでいくかだろう。
 

 

地元の協力店を大切にしながら
「フェス飯」のノウハウを育てる
 
 音楽フェスに欠かせないのが「フェス飯」である。フェスは閉鎖された環境のなかで長時間過ごすので、当然、飲食の必要が生じる。地元ならではの料理、炎天下で過ごす観客が喜ぶメニュー、そしてフェスという非日常を演出してくれる内容などフェス飯への要求度は高い。
 
   男鹿フェスの実行委員会で飲食部門を担当するのは地元で食事処「省吾」を営む竹谷一広氏だ。当然のことながら、男鹿市では音楽フェスが行われたことがなかったので、地元の飲食事業者にフェス飯のノウハウはなかった。竹谷氏は、自らも出店するとともに、地元の飲食業者に声をかけ、手探りで食事を提供する体制を整えていった。
 
   だが、屋外フェスになって最初の数年間は動員に苦しんだ。一部の飲食ブースの売上も見込みに届かず、「男鹿フェスは出ても儲からない」という風評まで流れた。それでも実行委員会は地元や県内の飲食事業者に声をかけ続けた。
 
「平成24(2012)年に開催したVol.3ぐらいから売れる店、売れない店がはっきり分かれるようになってきました。すると、売れない店が研究を始めた。他のフェスを視察し、新しいメニューを開発する。意識が変わり始めましたね」(竹谷氏)
 

男鹿フェスVol.1のフードエリア。
当初は地元の「しょっつるやきそば」の屋台ばかりだったこともあった。
試行錯誤を重ねながら、来場者の評価も年々、上がっている。

 
 
2日間3,000万円の市場は
新たなビジネスの契機にもなる

 
 飲食店の確保のために竹谷氏が心がけたのは、前年に出店した店舗から声をかけることだった。出店ブースの数は13ブース。採算度外視で参加してくれた飲食店を大切にしながら、辞退する店があれば新しい事業者に声をかける。そして、2日間開催になった今では、東京の飲食業者からもぜひ出店したいという打診が来るようになった。
 
 「地元の飲食店には何か特別なメニューを開発して、フェスで提供するだけでなく、日常の営業でもメニューに加えてほしい。そうすれば、その店を目指す流れもできる。フェスはマーケティングの場にもなりますね」(竹谷氏)
 
  確かに、会場で1人あたり3,000円消費するとして延べ1万人が来場すれば2日間で3,000万円規模の市場になる。男鹿の日常にはない特別の場を利用できれば新しいビジネスの道も開ける可能性も大いにあるのだ。
 

              

  その機会を活用しているのが、男鹿フェスのホームページ制作を担当する船木一氏(㈱男鹿なび代表取締役)である。船木氏はイベント当日、キッチンカーで生ジュースを提供していた。
 
 「以前はテントで生ジュースを販売していたのですが、保健所のルールが厳しくなり難しくなった。そこで、300万円を投資して生ジュース用のキッチンカーを購入しました。男鹿フェス以外にも、市内のイベントに参加し、それ以外の週末は男鹿水族館(GAO)の駐車場で販売しています。十分にビジネスになります。このキッチンカーの企画も男鹿フェスがなければ生まれていなかったでしょうね」
 

男鹿フェスVol.7のフードエリアの様子。
人気店には長蛇の列ができる。右下は船木氏の生ジュースのキッチンカー。(キッチンカーの写真は男鹿市提供)

フェス運営の交流から生まれた
地域における人と人の新たな絆
 
 宿泊、飲食といった直接的な経済波及効果に加えて、菅原氏が指摘するもう一つの効果がある。異業種交流による人脈の活性化である。
 
「実行委員会には約30名のメンバーが参加していますが、仕事はみんなバラバラです。男鹿フェスの運営実施を通じて、共に働き、関係が強まるとそれぞれの仕事への理解も深まります。お互いに仕事を頼んで取引量が増えたり、新しい企画を一緒に始めるなどフェス以外でのビジネス交流が生まれています」
 
 伝統的な祭りは地域の人々の絆を強め、ともに地域の課題を解決するための素地を作る。男鹿フェスもまた、回を重ねるごとにその素地を育んでいるのだ。ちなみに、実行委員会からは結婚したカップルが3組生まれたという。人口減少を議論する市議会でもその事実が報告されるなど、参加者同士に深い交流があるイベントが地域に与える好影響に行政も注目し始めている。

 

男鹿フェスの終了後には実行委員会やボランティアの打ち上げが行われる。
フェスを通じた人々の交流も重要な副産物だ。

 
「男鹿」「ナマハゲ」というネーミングで
男鹿市の知名度アップに貢献する
 

 地元の行政は男鹿フェスをどのように捉えているのだろうか? 男鹿市では男鹿フェスを後援するとともに補助金を支給している。また、フェスの当日はボランティアとして参加する市職員も多い。
 
  産業建設部観光商工課主幹の沼田弘史氏は「観光商工課では船川地区と港湾エリアの賑わいづくりの両方を担っているのですが、男鹿フェスはまさにそれを実現してくれているので有り難いと思います」と語る。
 
  また、同課の主事、髙橋由真氏は「このイベントはタイトルに『男鹿』と『ナマハゲ』の両方が入っていて、県外の人々にも男鹿市のPRをしてくれています。ボランティアとして参加したときに、来場者の方々が『ただいま!』って言ってもらえたときは本当に感動しました」と嬉しそうに語る。
 
  このイベントが男鹿市の知名度アップにつながっていることは、実行委員会の来場者アンケートからも分かる。平成28(2016)年の男鹿フェスでは「男鹿市は何回目ですか?」という質問に対して、初めてと答えた回答者が35%に上った。来場者1万2,000人で換算すると、男鹿フェスがなければ男鹿市に来ていなかったかもしれない人々を4,000人以上集客しているのだ。
 

 

グラフからも、男鹿フェスが男鹿を訪れる動機を作っていることが分かる。

 
 

フェスを支える地域のボランティア
登録者は倍増し、参加は県外からも

 
 平成26(2014)年のVol.5で2日間開催になった男鹿フェスは、翌平成27(2015)年のVol.6で前年並みの9,500人の動員をするが、決算は赤字だった。2日間開催で、よりよいステージにしようとすると経費もかさむ。平成28(2016)年は単年度黒字を達成したが、それも補助金や協賛金があってのことだ。
 
 アーティストのラインナップを磨くための費用を縮小することはしたくないが、抑えられる経費を抑えたいというのは本音だ。そこで大活躍するのがボランティアスタッフである。
 
 フェスの運営には大変な数の人手がかかる。駐車場整理、受付、会場セキュリティ、ゴミの分別、トイレ清掃、グッズ販売など。男鹿フェスではこのほとんどをボランティアで賄っている。
 
 平成28(2016)年の男鹿フェスVol.7のボランティア登録者は86人。1日あたりの参加者の規模は約60人で前年の2倍になっている。加えて、各セクションの責任者が直接依頼するお手伝いの人員がいるので、1日あたり150人程度のボランティアスタッフが男鹿フェスに参加している。
 

              

 男鹿フェスVol.7では初めてフェスの公式ホームページでボランティアを公募した。一般申込は53名に上った。ボランティアの登録には本番1週間前に開かれる事前説明会への出席が必須条件になっている。ボランティアのまとめ役である千葉聡氏(男鹿市福祉事務所福祉班主査)は、「当日、ポンと来られても仕事はできない。事前にリーダーと面識があれば、当日も仕事がしやすい」と事前説明会の意義を解説する。
 
 申込者の全員が説明会に参加したことからも、男鹿フェスを一緒に作り上げたという意欲が伝わってくる。この公募ボランティアには、秋田市内からの参加も多く、そして県外(青森県)からの参加者もいた。
 

男鹿市民文化会館で行われたボランティアの事前研修の様子。
フェスを一緒に作りたいと思う人々の増加も男鹿フェスの認知度が上がった証拠だ。

 
平日の設営を支える高校生たち
その体験が地元への誇りと愛着を育む

 
 ボランティアでは地元の高校生たちも活躍する。とりわけ開催前の設営だ。「会場の設営は平日。みんな仕事を抱えているので無理に頼めない。夏休みに入った高校生が協力してくれるのは非常に助かります」と会場設営担当の吉田氏。吉田氏が市内の高校への声をかけるとともに、そして秋田市内の高校にも声をかけてくれる教員がいる。今年は43名の高校生がボランティア参加した。

 
 男鹿フェスは地域の活性化を目指すイベントであり、その核には「地域の誇り」を育むことを目指している。フェス会場で、ボランティアの高校生たちは演奏されている音楽の好き、嫌いに関わらず必死に自分の役割を果たそうとしていた。男鹿フェスで過ごした時間、そして、アーティストたちが口々に放つ「男鹿、最高!」というメッセージは若者にとって「地元への誇りと愛着」を呼び起こす一石になるはずだ。

 

受付、警備、ゴミ分別、駐車場など持ち場によって異なる仕事で分担し、
ボランティアによる運営を実現する男鹿フェス。

 
地域が一体となるフェスだから、
アーティストたちの支持も高まる
 
 千葉氏は「ここ数年でボランティアの意識がものすごく高まっている。来場者からの意見、そして他のフェスで行われていることでよいことは、どんどん男鹿フェスに反映しようとしている。例えば、両日ともに終演後は帰る人々を見送る時にゲートのところでハイタッチをします。それも実行委員会から指示しているわけではなく、自発的に生まれました。今では、来場者も楽しみにしています」
 

 こういったボランティアによる運営もまた、出演するアーティストから男鹿フェスが評価を受けている理由のひとつだ。地域が一丸となって創り上げる祭が持つ一体感と雰囲気は、商業的なイベントでは決して出せないものであり、アーティストたちは敏感にそれを感じ取るのであろう。

 

 資金難もあって生まれたボランティア制度だが、結果として男鹿フェスを支える重要なマンパワーになり、参加する人々にもかけがえのない体験を提供するだけでなく、フェス自体の価値も高めているのだ。
 

ボランティアが自発的に始めたハイタッチは男鹿フェスの恒例になり、楽しみにしている来場者も多い。

 
 

男鹿フェスVol.7の開場直前。50人以上のボランティアが円陣を組んで、思いをひとつにする。