研究員Report_09
「肉フェス」「餃子フェス」
(フードイベント)

にぎわい空間研究所
研究員 中西 基文 

SNS情報拡散による巨大集客力
〜話題を呼ぶイベントづくり

 

 若年層を中心に消費意欲が減退している今、優れた商品やサービスだからといって売れる時代ではない。重要なのは商品企画や事業立案の段階から、いかに話題づくりや情報拡散の仕掛けを組み込んでいくかにある。本稿では、年間に100万人以上も集客する食のモンスターイベント「肉フェス」を主催するAATJ㈱の事例研究を通じて今日的な集客のセオリーを検証していきたい。
 
 ヒット商品づくりの鉄則は、ブームの兆しを見極めながら、顧客の心の半歩先を行くことである。AATJでは、世界での和牛ブーム、TPPなどによる肉への注目、熟成肉や塊肉など従来とは異なる肉料理ブームの兆しがあったことに着目した。そして肉料理に特化したフードイベントがなかったことから、日本の有力肉料理店を集めた「肉フェス」を企画。平成26(2014)年5月に第1回を東京の駒沢オリンピック公園で開催した。
 
 第1回の肉フェスは4日間で29万人を動員。その後も全国の主要都市を中心に肉フェスを開催し、平成28(2016)年11月までに延べ28イベントで約420万人を動員してきた。アイドルのステージなど、肉フェスには従来のフードイベントにない要素がふんだんに盛り込まれているが、この巨大集客を成し得た最大の注目ポイントはSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した情報拡散の仕組みづくりである。
 
 かつてイベントの集客セオリーといえばテレビ、ラジオ、雑誌、新聞のマスコミ4媒体での情報発信が主流だったが、今はインターネットに置き換わっており、なかでもSNSが圧倒的な影響力を持つ。SNSは口コミメディアであり、情報の受け手のパーソナルな心に刺さると驚異的な情報拡散力を生み出す。SNSでの拡散のポイントは、斬新性やかっこよさ、美味しさなど、他人に伝えたくなる分かりやすい魅力があることだ。肉フェスのSNS情報拡散力では主に次の4つのポイントが挙げられる。
 
 
① ネーミング
「飲めるハンバーグ」「肉の爆弾 肉巻餃子」「旨すぎる!! 牛タンネギ焼き!!」など、料理を想像することができ、シズル感にあふれるネーミング。
 
 
② フォトジェニック
ジューシーな肉汁やこんがりとした焼き色、また圧倒的なボリューム感など、スマホで撮ってSNSで拡散したくなるような見た目であること。
 
 
③ 仲間とのシェア
肉フェスの会場ではグループが多い。みんなで手分けして複数の肉料理を購入し、分けあって食べ、美味しさと楽しさが共感できる場を提供すること。
 
 
④コラボレーション
ステージに出演するアイドルやアーティストが自身のSNSで肉フェスへの出演を告知し情報を拡散。さらに、映画、アニメ、LINEなどとコラボレーションしながら、肉フェスというブランドを広めてきたこと。
 
 
 AATJでは、平成28(2016)年10月12日〜16日に、東京都中野区で「餃子フェス」を開催し、5日間で8万人を動員した。餃子フェスという新たなテーマで成功を収めたことからも、AATJの情報拡散を前提としたイベントの集客セオリーは確かなものであると言えるだろう。
 
 集客が難しい時代だからこそ、商品やイベントには話題性が必須である。事業立案から商品発売やイベント開催に至るまで、常にプロモーション、とりわけSNSによる情報拡散を基軸に置きながらプロセスを踏んでいく必要がある。しかしその実行は難しい。AATJのフードフェスはその重要性と実行メッソッドを教えてくれるのである。
 

 研究Report_09

すべては集客のために
〜シェアの力が人を呼ぶ〜

「肉フェス」「餃子フェス」(フードイベント)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会
 
 
 

 平成26(2014)年5月にスタートし、巨大な集客を続けながら急速に成長してきた「肉フェス」。その成功の大きな要因は、消費者のニーズを先取りする話題性の高い企画立案とSNSによる情報拡散を主軸に置いたプロモーショナルなイベントづくりにある。
 
 肉フェスを主催するAATJ㈱は平成22(2010)年5月の創業である。音楽業界出身のメンバーが中心となって立ち上げ、コンサートなどを企画運営するイベント会社としてスタートした。同社では、日本のコンテンツを海外で紹介する「Tokyo Crazy Kawaii(東京クレイジーカワイイ)」を主催しているが、それが肉フェス誕生のきっかけとなった。
 
 平成25(2013)年9月にパリで開催された「Tokyo Crazy Kawaii Paris」では、アニメ、音楽、ファッション、伝統芸能など幅広い分野にわたる日本文化を紹介した。パリでも日本文化は大人気だが、一方で偽物も多い。本物の日本文化を届けることを理念に掲げ、AATJでは自社でリスクを負ってイベントを実現した。会場では寿司やラーメンなど日本食ブースも設けるとともにマグロの解体ショーなどを行った。この日本食に対する反響が予想以上に大きかった。
 
 AATJ取締役COOの遠藤衆氏は「このイベントを通じて、様々なコンテンツを一度に紹介することで相乗効果が生まれること、そして文化の情報発信では『食』が大きな牽引力を発揮することに気づきました。いつか、日本の食文化を世界に持っていきたいと思い始めたのもこのイベントがきっかけです」と語る。
 
 日本の肉料理を磨き、日本の食文化として世界に発信する。その強い思いが「肉フェス」誕生の背景にはあったのである。
 

 
現地メディアからも注目された「Tokyo Crazy Kawaii Paris」。
マグロの解体ショーなど食イベントも話題となった。
トレンドを読み、仕掛けた
肉フェスは29万人の大集客
 

 AATJが肉フェスを立案していた当時、世界では「和牛」のブームが起こりつつあり、一方でTPPの議論によって食肉への注目も集まっていた。国内では、熟成肉や塊肉など従来の肉料理とは異なる新たな肉文化が支持を得始めていた時期だった。さらに、肉料理に特化したフードイベントはなかった。AATJはこうした社会状況の洞察を踏まえて、肉のフードイベント「肉フェス」の開催を決意する。
 
 類似するイベントがなく、大衆性がある題材であり、ニッチなファンがいる。これらはヒット商品を生み出す方程式とも言われる要件だが、AATJが着眼した肉のフードイベントはそれらの条件を兼ね備えていたのである。
 
  平成26(2014)年5月2日〜5日、第1回の肉フェスが東京都世田谷区の駒沢オリンピック公園で開催された。入場は無料。15店の肉料理店のブースが軒を連ねた。4日間の来場者は約29万人という驚異的な人数に上った。

 
 約29万人を動員した第1回の肉フェスの会場風景。
予想を上回る反響があり、AATJでは次の立川会場から交通系ICカードによる精算システムを導入した。
 
   肉フェスはその後も快進撃を続け、平成26(2014)年はわずか2イベント(延べ16日間)で約71万人を動員。平成27(2015)年も約204万人(12イベント・延べ86日間)、平成28(2016)年は14イベント(延べ93日間)で約144万人を集客した。
 
 肉フェスでは、日本全国から有力肉料理店を集めた。AATJのスタッフ自らが候補となる料理店に赴き、実食をしながら品質を確認し、イベントに参加する店舗を募っていった。ラインナップされた肉料理は「飲めるハンバーグ」「ガリバタROCKステーキ」「門崎熟成肉塊焼」「牛サーロインカツレツ」など、バラエティに富み、普段あまり馴染みのない料理ばかりだ。まさに肉フェスという名の通り、独創性と品質の高い料理店(=アーティスト)が結集するイベントに仕立てたのである。
 
 「フェス」という括りも効果的だ。2010年代に入り急速に音楽の「夏フェス」が一般化してきた。あるテーマのもとに集まった様々なアーティストのライブを一つの会場で体験できるイベント、夏フェス。会場でしか買えないフェス飯やグッズなどの限定感も相まって、その楽しさが広く伝わっており、「フェスの肉版」というイメージは期待感をもって受け入れられたのである。
 
肉フェス参加の肉料理はどれも個性派。一会場で各店の味を楽しめるのが最大の魅力だ。
 
 
感動的なライブ空間で
来場者の「楽しい」を創出

 
 AATJが主催する肉フェスは、業界団体が開催するPRイベントではなく、収益を生むためのイベント興行である。想定する動員を実現しなければ、収益事業として成り立たない。大規模集客は同社にとって事業の生命線なのである。AATJは、この大命題を果たすべく、まず、来場者の期待感を裏切らない感動的なライブエンターテイメント空間を実現した。
 
 会場にはステージが設けられ、会期中はほぼ途切れなくアイドルやアーティストのパフォーマンスが行われている。来場者は音楽を楽しみながら、肉料理に舌鼓を打っているのだ。
 
  音楽だけではない。例えば、平成282016)年12日〜6日に京セラドーム大阪で開催された「スーパープレミアム 肉フェス」(5日間、延べ68,000人動員)では、新年の開催にちなんで「肉神社」が設けられ、おみくじならぬ「おにくじ」が販売された。他にも巨大な滑り台などの遊具、会場に隠された『こびとづかん』のキャラクターを探すゲーム、肉フェスグッズやオリジナル日本酒の販売など通常のフードイベントにはないエンターテイメント要素がふんだんに盛り込まれていた。

  「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。 「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。 「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。 「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。 「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。 「スーパープレミアム 肉フェス」の会場風景。ステージや遊具に加え、新年らしく肉神社も登場。夜になっても入場券を求める長蛇の列は途切れなかった。
 AATJマーケティング本部本部長の喜納桃子氏は「肉フェス来場者のTwitterのつぶやきなどを見ると、『おいしい』と『楽しい』という言葉が見られます。おいしさは料理の味だけではなく、楽しいことの集合体なのでしょう」と語る。
 
 確かに会場を見渡すと、友人や家族、同僚などと会場のテーブルを囲んでいる来場者が数多くいる。肉フェスは、単に肉料理を食べるだけでなく、人々が時間を楽しむ場になっている。AATJは人々が楽しさを感じる空間づくりの演出に労力を惜しまず、きちんと予算をかけることで、既存のフードイベントと一線を画すフードフェスを作り上げた。これこそが、食の感動空間を創出するための秘訣なのである。
 
 
 
SNSでシェアしたくなる
イベントの組み立てとは?
 
 肉フェスが巨大集客を実現している背景には、インターネットによる情報拡散力がある。従来、イベントの集客と言えば、テレビや新聞、雑誌といったマス媒体が主流だった。だが、スマートフォンの普及によってインターネットが消費者の情報収集の主要メディアに置き換わった。とりわけ、友人とのコミュニケーションや情報共有ができるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での情報拡散力の威力は絶大である。
 
 肉フェスでは、SNSによる企画や運営のあらゆる場面に来場者がSNSで情報発信したくなる要素を盛り込んでいる。
 
 まず、ネーミングだ。「飲めるハンバーグ」「ガリバタROCKステーキ」「旨すぎる!! 牛タンネギ焼き!!」など、その名前を聞いただけで食べたくなるような商品名を店舗とともに考案している。また、見た目もフォトジェニックである。ハンバーグから流れ出すジューシーな肉汁、香ばしい匂いが伝わる焼き色、口のなかでとろけるほどよい脂身など。絶妙なネーミングと美味しそうなビジュアルがセットになってSNSに投稿されることで、情報が一気に拡散していくのだ。
 
 
  
グループでの来場が多い肉フェスの会場風景。この会場で少人数の同窓会を開くグループもあるという。
 
 
   そして、何よりも来場者自身がリアルな場でのシェアを楽しんでいることの強みがある。会場には友人やカップル、家族などでの来場が多い。手分けをして列に並び、購入した肉料理を分けあって食べ、会場で楽しんでいる様子をSNSへ投稿するのだ。「リア充」という言葉に象徴されるように、リアル空間での喜びの写真は、結果として肉フェスのブランディングになり、集客を喚起する。
 
 アイドルやアーティストたちのパフォーマンス、そしてエンターテイメント空間としての演出もまた、SNSによる情報発信へと直結する。アイドルが肉フェスの出演をSNSで告知すれば万人単位のフォロワーに肉フェスの存在が伝わる。さらに、SNSのプラットフォームである「LINE」、映画、アニメーションなどとのコラボレーションにも積極的だ。こういった外部のコンテンツのファンも巻き込みながら、複合的に肉フェスの情報を拡散しているのである。
 
  
肉フェスはアニメやLINEなどともコラボレーション、話題づくりを行なっている。
 
最強のシェアめし
餃子フェスの誕生
 
 平成28(2016)年のゴールデンウィークに開催された肉フェスでは東京と福岡の会場で食中毒が発生した。AATJでは、その後の開催を中止して被害者への対応と再発防止に向けた衛生管理の徹底、マニュアルの大幅な改善による危機管理への一層の注力を行なった。そのうえで、同年9月に福岡ヤフオク!ドーム会場での再開を果たしている。10月12日〜16日には新たなフードイベント「餃子フェス」を立ち上げ、大ヒットさせたのである。
 
 餃子もまた、決して目新しいフードコンテンツではない。だが、近年はおしゃれに餃子を楽しむ飲食店「餃子バル」が登場し、女性が楽しむ新たな餃子文化として支持され始めていた。マーケティング本部長の喜納氏はこのトレンドに注目し、調査を開始。調べれば調べるほどフードフェスのコンテンツに餃子が適していることを確信した。
 
「餃子は、具材(肉、野菜、海鮮)、調理法(焼き、蒸し、茹で)、タレ(ラー油醤油、味噌、酢胡椒)などバリエーションが豊富です。また、全国に餃子の名店もある。そして、すべての栄養素を含んでいる『完全食』でもあるのです」
 
バリエーション豊かな餃子フェスの参加商品。
見た目のシズル感や可愛らしさがフォトジェニックのでSNSで情報が拡散しやすい強みもある。
 
 
 AATJが注目したのは、餃子が肉料理以上にシェアしやすい料理であることだ。数個単位で提供されるのでグループでも分けやすい。見た目に工夫した餃子も多いことからSNSでのシェアも楽しい料理である。さらに、食のシーンも様々なので家族や友人、恋人、同僚などと一緒に楽しい時間を過ごせるのだ。AATJでは餃子を「最強のシェアめし」と位置づけ、餃子フェスの情報を拡散していった。
 
 そして何よりも餃子フェスで注目すべきは、ターゲットを女性に絞ったことだろう。餃子バルを楽しむ女性、そして調査で数多くのクリエイティブ系の女性の多くが「マイ餃子」があるほど餃子を好んでいることを知り、女性が堂々と餃子を食べられるイベントに方向性を定めた。キービジュアルはベースカラーをピンクにして、餃子をハート型にデザイン。「餃子女子」という言葉まで創作し、餃子で女子会を開催する際には「“餃子フェス”をやろう」と言ってもらえるように仕掛けた。こうしてテーマと仕掛けを練り上げ、情報発信を行っていくことで、消費者とメディアの注目を集めていったのである。
 
女性をターゲットにした餃子フェスのポスター。
会場の中野四季の森公園は餃子を求める人々で埋め尽くされた。
 
 
「餃子フェス」出店飲食店一覧
 
AATJはフードイベントを
さらなる次元に押し上げる
 

 餃子フェスの開催地となった中野区では地域の活性化を目指して「中野発のフードイベントを企画したい」という思いがあり、今回の餃子フェス開催に至ったという。会場の中野四季の森公園でフードイベントが開催されるのは初めてのこと。同公園では芝生エリアも通常は養生のために立ち入りが禁止されているが、今回の餃子フェスでは特別に立ち入りが許可された。
 
「イベントが出来なければ何も始まりません。観光協会など地域の集客に取り組んでいる団体と組むことで開催に伴う制約を解いていきます。弊社も単独で開催するよりも地域の団体と一緒のほうが様々なことを教えていただけるので有益です。その情報が次のコンテンツづくりにつながりますから」(遠藤氏)
 
 中野区観光協会の発表によると餃子フェスが中野区に及ぼした誘客効果は23万人に上ったとしている。AATJと中野区の双方にとってwin-winのイベントだったのだ。

   
餃子フェス会場の中野四季の森公園。
芝生エリアも開放され、商品を購入した人々が餃子を食べながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。
 
 

「肉フェス」「餃子フェス」の成功は、次なるフードフェスの登場を予感させる。遠藤氏は「驚くようなエンターテイメント空間を作りたい。食事をしに来たはずなのに、あまりにも面白くて、驚きに満ちているイベント空間。そう、テーマパークのようなレベルです。AATJはフードイベントをさらなる次元に押し上げていきます」と語る。
 
 AATJは外食企業でもなければ、食品メーカーでもない。飲食産業のアウトサイダーであるイベント会社の同社が「エンターテイメントによる文化発信」という視点からフードイベントを捉えたことにより、肉フェスという斬新なプラットフォームが生まれた。
 
  重要なのは、コンテンツの目新しさではなく、消費者のニーズの予兆を掴み企画立案し、情報拡散を常に念頭に置きながら実施運営を進めていくことにある。AATJはそのセオリーを踏襲し、イベントの実施における情報拡散まで、ぶれることなく実践している。その首尾一貫したイベント戦略こそが巨大集客の秘訣であり、我々が学ぶべきキーポイントなのである。 

   
左:フードフェス事業の責任者であるAATJ取締役COO 遠藤衆氏
右:マーケティング本部本部長 喜納桃子氏
 
 
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イベント名:「肉フェス」「餃子フェス」
種別:フードイベント
主催: AATJ株式会社
初開催:平成 262014)年 52日〜 5日 駒沢オリンピック公園
累積動員人数: 420万人
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