研究員Report_05
「なぞともCafe」(アミューズメント)

にぎわい空間研究所
主席研究員 那須野 純志

 
バーチャルの必勝法を
リアル空間ビジネスに取り込む
〜「なぞとも」が示したリバーチャルの可能性〜

 

 リアル空間におけるビジネスが苦境に立たされている。ゲームセンターをはじめとするアミューズメント産業もまた、スマートフォンのソーシャルゲームなどの台頭によって、バーチャルの進出を大きく受けている業界である。一般社団法人日本アミューズメントマシン協会によると、アミューズメント市場は平成19(2007)年度の約3兆9,161億円ピークに減少が始まり、平成24(2012)年度には約1兆8,277億円まで縮小したという。
 
 この未曾有の市場縮小という荒波のなかで、アミューズメント大手の(株)ナムコでは、リアルゲーム事業に取り組み始めた。イベントとして話題となっている「謎解き」をテーマに参加者自らが実空間の中で頭と体を使いながら遊ぶ「体感型リアルゲーム」の市場創出を目指しているのだ。
  
 特筆すべきは、実店舗というリアルと、ネットというバーチャルを融合させた「リバーチャル」の構想を基に、事業の全体像を描いたことである。
 
 同社ではまず、ポータルサイト「なぞとも」を立ち上げた。このサイトでは、各地で行われる謎解きイベントの情報を告知し、謎解きファンたちの間での認知度を高めるとともに、謎解き制作者団体とのネットワークを構築した。一方で、期間限定の謎解きイベントを実施しながら、ファンの動向や嗜好を把握。そして、平成26(2014)年8月、東京・新宿に謎解きゲームの常設店舗「なぞともCafe 新宿店」をオープンした。私はコンストラクションディレクターとして同店舗の立ち上げ、そしてその後の店舗展開に関わらせていただいた。
 
 なぞともCafeで公開される謎解きゲームの多くは、前述したなぞともサイトを通じて人的なネットワークを構築した制作者団体によるものである。それぞれの制作者団体のファン、そしてサイトで存在を知った人々が店舗を訪れるとともに、サイトを通じて店舗そのものにもファンを創出していった。新宿店の集客数は開店後約2年経過した今でも右肩上がりで増加を続けている。
 
「なぞとも」プロジェクトは、あくまでリアル空間でのビジネスに軸足を置きながら、バーチャルの持つ優れた機能を活用することで、情報や顧客、コンテンツメーカーをリアル空間のビジネスに取り込んでいく仕組みを構築したのである。なぞともは、リアルとバーチャルが相乗効果を生みながらリアル空間のビジネスを拡大する手段が存在することを教えてくれる好事例と言えるのだ。
 
 
 
 

 研究Report_05

リバーチャルで施設事業の制約を超える
〜謎解きのポータルメディア実現への挑戦〜
Vol.01

なぞともCafe(アミューズメント)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会 

 
 
 新宿・歌舞伎町。新宿通りに面したドン・キホーテのビルの7階に「なぞともCafe新宿店」がある。店内の入口付近にはドリンクの販売や受付をするカウンターがあり、その奥にはカフェスペースが広がっている。そして、カフェを囲むように通路があり、そこにはミッションキューブと呼ばれる10室の「謎解き個室」が設けられている。
 

 
 店内に置かれたメニューには何種類もの謎解きが紹介されている。挑戦したい謎解きを選び、店内の端末で予約をして、自分の番が呼ばれるのを待つ。カフェは順番を待つ人々で混み合っている。20代のグループやカップルが中心で、女性が多い印象だ。濃い赤色を基調とした店内は、アメリカの探偵映画に出てきそうなミステリアスな雰囲気がある。壁にはプロジェクターで謎解きのプロモーションビデオが流れている。
 
 予約番号を呼ばれると、カウンターで料金を支払う。そして、指定のキューブへと案内される。室内に入ると、この部屋の謎解きのミッションが下される。制限時間は765秒。室内に設けられたヒントを基に、頭をフル回転し、仲間とのコミュニケーションを総動員しながら謎に立ち向かっていくのである。
 
 
   

 
   謎が解けた時の喜びと達成感、チームとして戦う仲間意識、そしてあと一歩で及ばなかった時の悔しさ。なぞともCafeは、従来のゲームセンターでは体験できなかった感覚を引き起こしてくれるのだ。そして、キューブから出てくるとカフェにいる人々が同志に思えるから不思議だ。  
 

 「体感型リアルゲーム」とも呼ばれるなぞともCafeの謎解きには特筆すべきことがある。この施設を含めたなぞとも事業全体が、リアルとバーチャルを融合する「リバーチャル構想」に基づいて構築されているというのだ。リアルのゲームセンター事業が苦境に立たされる今、なぞともを展開する(株)ナムコは、いかにしてバーチャルを取り込みながら、この新しいビジネスモデルを立ち上げたのか? その誕生の「謎」に迫っていきたい。
 

 
 

施設事業の既存概念を超える
リバーチャル構想を発案
 
 
「2000年代の後半、オンラインゲーム、そしてSNSゲームが台頭し、遊びの多様化に拍車がかかりました。ナムコの本業であるゲームセンターも利用者が減り、会社の柱となる新しい事業を作らなければという危機感を強く感じていました」
 
 こう語るのは、なぞともプロジェクトのプロデュースを手掛けた浦田健一氏(ナムコIP施設営業本部 新規事業推進部 ゼネラルマネージャー)である。
 
 一般社団法人日本アミューズメントマシン協会によると、ゲーム産業の市場は平成19(2007)年度の3兆9,161億円をピークに減少が始まり、平成24(2012)年度には1兆8,277億円へと減少している。わずか5年間で5割以上の市場縮小であり、ゲームセンターのオペレーション売上高も、同期間に6,781億円から4,700億円へと減少した(『アミューズメント産業界の実態調査(平成24年度版)』より)。こういった市場規模の縮小に加え、浦田氏は施設事業の限界についてこう語る。
 
「施設事業はリアルに存在する魅力があるものの、一方で絶対的な制約もあります。施設の空間が限られている以上、売上は、キャパシティ、回転数、客単価の掛け算であり、その制約は超えられません。空間の制約という施設事業の既成概念を超えられないか? それが『リバーチャル構想』を着想したきっかけです」
 
 当時、『コロプラ』に代表される一部のオンラインゲームが、リアルのロケーションや施設を活用したコンテンツづくりに取り組み始めていた。だが、一方のゲームセンターなどリアルの施設事業者は、「バーチャルのビジネスを敵対視する傾向にあった」(浦田氏)という。インターネットなどバーチャルなメディアは費用を払って広告する媒体に過ぎないという認識だったのだ。
 
 だが、浦田氏は「リアルを起点にしてバーチャル分野にも進出し、事業体を双方向で作り上げてもおかしいことではない」と考え、リアルとバーチャルの融合による新しいアミューズメントビジョン、「リバーチャル構想」を発案した。課題は、どんなテーマによってリバーチャル構想を成立させるかだった。
 
  

浦田健一氏(ナムコIP施設営業本部 新規事業推進部 ゼネラルマネージャー)
「なぞとも」のほかに「アニオンステーション」などナムコの新規事業を手掛ける。

 
 

謎解きのマーケットに注目し、
社名非公開でユーザーの動向を探る
 
 
 浦田氏は平成21(2009)年頃から、アメリカで話題になり始めていた「ARG」に注目していた。ARGとはAlternate Reality Gameの略で、日本語では「代替現実ゲーム」と訳される。日常生活を舞台として、実際の広告物などに散りばめられた情報を基に謎を解き、隠されたストーリーを明らかにしていくゲームだ。まさに、現実を舞台とした体感型の「リアルゲーム」である。
 
 当時は日本でも、宝探しゲームやホテル宿泊型の謎解きゲーム、そして脱出ゲームが話題になり始めていた。浦田氏が注目したのは、こういったリアルゲームの利用者の属性だった。
 
「利用者の中心は、バーチャルな遊びで育ってきた20代でした。この世代がアナログの遊びに新鮮さを感じているのだと気づき、謎解きのジャンルを掘り下げて、事業化を目指すことにしました。またこの世代はゲームセンターを利用しない層でもあったので、本業の事業とバッティングしないという読みもありました」
 
 ナムコではまず平成24(2012)年6月を皮切りに期間限定の謎解きイベントを実施していきながら謎解きの市場を調査していった。社名は非公開にした。ナムコという先入観を外した上で、利用者の純粋な動向を観測するのが目的である。イベント開始時は来場者が驚くほど少なかった。ナムコという名前を使えないので大規模な宣伝広告ができない。謎解きを求める人々に直接情報が届くメディアもない。だが、不思議なことに回数を重ねるにつれて来場者はうなぎ上りに増加し、終了間際になると行列ができるほど盛況になった。そして、平成25(2013)年7月から平成26(2014)年1月に代官山で行われた謎解きイベントでは全期間で2万人を集客し、多い時で3時間待ちの長蛇の列ができた。そこから分かったのは、謎解きイベントの情報拡散の動向だった。
 
「最初に来場するのは、どんな謎解きでも行きたいというコアなファン。内容が面白ければ、口コミで宣伝をしてくれます。TwitterにLINE、Facebook。それ以前であればメールで情報が広がりました。通常のレジャー施設は開業の日が来場者数のピークで徐々に減っていくもの。しかし、謎解きはコンテンツが面白ければ、その情報がネットで拡散されて右肩上がりに来場者が増えていくという傾向があったのです」
 
 この増加傾向は、後に開業する「なぞともCafe」でも立証されることになる。
 

平成24(2012)年6月30日にお台場で開催されたイベント
「ドラマチック推理ゲーム 『推理カフェDAREDA』」(80名限定)の様子。
主催名はナムコではなく、「WONDER Q」の名称で開催された。

 
 

謎解きのマーケット拡大を目指して
中立的なポータルサイトを立ち上げる
 
 
 浦田氏のチームが次に着手したのは、謎解きイベントのポータルサイト「なぞとも」(http://nazotomo.com)を立ち上げることだった。前述の通り、当時、謎解きイベントを網羅するメディアは存在していなかった。施設事業として継続的に来場者を集客するためには謎解きの市場そのものを拡大する必要がある。そのためには、ナムコの社名を出さずに、中立的に全国の謎解きイベントを紹介する情報サイトが不可欠と考えた。市場の情報を集め、市場に情報を発信するサイトを作る。リバーチャル構想が根底にあるプロジェクトだからこそ生まれた発想だと言えるだろう。
 
 平成24(2012)年秋に開設されたポータルサイト「なぞとも」では、謎解きイベントの情報を無料で掲載した。コアなファンがサイトの情報をフォローし、実際にイベントに参加する。体験した人々は「このイベントはすごい!みんな行ったほうがいい」という個人的な感動をソーシャルメディアを通じて発信する。なぞともサイトはコアな層に訴えかけることで、ネット上における謎解き情報の発信源となることを目指したのである。
 
 謎解きイベントを発案・企画する制作団体は、小規模な団体や個人も多い。サイトを設け、イベントの情報発信を支援したことは、謎解きクリエイターたちの育成にもつながり、彼らとのネットワークも構築され始めた。このネットワークは「なぞともCafe」の事業構築でも生かされていく。
 
 重要なのはポータルという考え方だ。ソーシャルゲームの世界では、GREEやMobageが筆頭に挙げられる。様々な会社が制作するゲームは知名度の高いポータルサイト(もしくはプラットフォーム)に登録されることで、数多くの利用者にその存在を知らしめる。利用が拡大すれば、ポータルの収益も増大するのだ。
 
「なぞとも」サイトは、ナムコというリアルでの展開を前提とした事業者が、中立的な情報発信をしながら、ネットの世界では当たり前に行われているポータルという概念をビジネスに取り込んだ点で非常に画期的である。市場が大きくなり、メディアとしての地位を確立すればビジネスの幅も広がる。そして、ポータルという考え方は常設店舗の「なぞともCafe」でも実践されていくのだ。
 
 

なぞともサイトのトップ画面。
同サイトでは常に、開催予定の謎解きイベントが数十件紹介されている。