研究Report_03

研究の種とビジネスを結ぶ
〜アグリビジネスの活性化を演出する仕掛人たち〜
Vol.02

アグリビジネス創出フェア2015(農林水産省)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会 
 

マッチング展示会の成果を出すために
 新たに設けられたコーディネーター制度

 
 開発途上の研究内容を、求めている人々につないでいく。その役割を果たしているのが、この展示会独自の「コーディネーター」と呼ばれる人々だ。
 
 なぜ、コーディネーター制度が設けられたのか? アグリビジネス創出フェアは、平成16(2004)年度にスタートし、平成27(2015)年度で12回目を数えた。農林水産省が管轄する研究機関の成果を紹介することから始まったが、農林水産関連の研究を行う大学、そして企業へと出展者の範囲を広げてきた。
 
 主催である農林水産省の轟木良則氏(農林水産技術会議事務局研究推進課産学連携室課長補佐・当時)は「背景には、農林水産分野の研究開発予算が平成14(2002)年をピークに減少し始めたことがあります。研究内容を情報発信し、必要な費用を民間から積極的に呼び込まなければという危機感があったのです」と語る。
 
 だが、研究展示会という性格上、なかなかビジネスマッチングは成立しなかった。成果を出さなければ展示会の存続も危うい。その状況を打破するために、平成19(2007)年度から導入されたのがコーディネーター制度だったのである。
 
 平成27(2015)年度は、18名がコーディネーターを引き受けた。彼らは農水分野の専門知識を持ち、日頃から大学やNPO、民間企業などで産学官の連携を仕事としている人々だ。農林水産省の機関で研究者として働いていたOBも多い。それぞれの専門分野を持つコーディネーターには担当する出展者が割り当てられる。彼らは事前に出展者の情報を把握し、どんな研究機関が参加し、どのような交流を求めているのかを理解しながら、専門知識と経験を生かして、マッチングのお膳立てをしていくのである。
 
 展示会場の中央には「コーディネーターカウンター」が設けられている。数名のコーディネーターが常駐し、来場者の相談に随時、対応している。来場者にヒアリングをしたうえで、適切な紹介をしてくれるのである。事前に事務局に連絡があり、「こういう研究者を紹介してほしい」と依頼されることもある。
 
 コーディネーターは「マッチングサポートツアー」のガイドも務める。会期中、30分から40分のツアーが1日に6回実施されている。それぞれのツアーには「新品種」「畜産」「機能性食品」などテーマが設けられており、関連する数カ所のブースをコーディネーターのガイドによって回っていく。各ブースでは、担当者が内容を説明してくれるので、関心のある分野の注目ブースを短時間で効率よく回り、ポイントを理解できるのだ。 
 
 

会場で行われているマッチングツアーの様子。コーディネーターはもちろんだが、
ツアー参加者同士でも名刺交換などの交流が行われる。

 
 
 

年間を通じて情報交換を続けるからこそ
リアルなビジネスマッチングが生まれる

 
  「正直に言えば、会期中の3日間だけではマッチングの成果は出ません。会場で商談が成立する訳ではありませんからね。展示会は3日間ですが、担当する企業の多くとは年間を通じて情報交換をしています。いつも頭のどこかで、この展示会とマッチングのことを考えています」

 
 こう語るのは、コーディネーターを務める松井純氏(㈱三重ティーエルオー、三重大学社会連携研究センター)である。日頃から交流をしているからこそ、出展者の研究内容とニーズを把握できる。ただつなげればよいという簡単な話ではないのだ。では、コーディネーターとしてのメリットはどこにあるのだろうか?
 
   「この展示会を通じて、全国を見渡せることは大きいですね。全国の大学がどんな活動をしているかを知り、地元に持ち帰って連携を提案する。先方の大学の背景にも地域の企業や研究機関とつながっているので、手を組めるポイントは必ずあるはずです。実際、ある大学の細菌に関する研究を浄水装置の開発に取り組む会社に紹介したところ、応用技術の実用化に向けた実施契約が成立しました。自分の働く大学以外の案件も増え、仕事の幅は確実に広がりました」
 
   確かに、日頃働いている地域の情報だけではマッチングをするにしても限界がある。アグリビジネス創出フェアは、コーディネーターたちにとっても、新たなビジネスマッチングを生み出すための出会いの機会となっているのだ。
 
   この展示会は出展料が無料である。参加の敷居が低い分、出展希望者の判別は重要であり、その役割もコーディネーターが担っている。岡山大学で上級リサーチ・アドミニストレーターを務める武田譲氏は「この展示会は研究成果を発表する場ですから出展内容には研究要素が必要です。出展希望に対して担当コーディネーターが調査を行い、適切な団体かを見極めるのです。研究技術交流会としての質の担保は重要だと思います」と語る。
 
   ある研究機関とともに出展していた大手食品会社の担当者からは「出展されている研究は、市場は遠いけれど、その技術は間違いありません。信頼できて将来性のある研究ばかりが出ている展示会です。この展示会に出るとアグリ系の研究がどの方向に進んでいるかが分かります」という声も聞かれた。このコメントは、出展者の実感として、武田氏の言う「質の担保」が果たされている証と言えるだろう。
 
 

コーディネーターカウンターでは、担当のコーディネーターが常駐し、来場者の相談に対応する。
コーディネーター同士の情報交換も盛んだ。中央が三重大学の松井純氏。

 
 

社会と出会う研究者の卵たちの興奮が
アカデミックな展示会を盛り上げる

 
 
 興味深いのは、隣接する会場で農業生産と青果物流技術のB to B展示会「アグロイノベーション2015」が開かれていることだ。同じく食品や農業系の展示会であるが、こちらは凝ったディスプレイ、担当の営業パーソンやコンパニオンが来場者を迎える。
 
  アグリビジネス創出フェアとは対極にある展示会だが、両イベントは受付などの手続きなしで自由に往来できる。来場者は商談のできるビジネスと可能性を秘めた研究開発の両方について情報を得られる。両展示会は連携を図りながら相乗効果を生み出しているのだ。
 
  大学のブースでは、研究室の学生たちが説明を行っている。なかには、イチゴのかぶり物をした学生や、やはりイチゴをテーマにしたキャラクターにコスプレをした女子学生たちが来場者に声をかけている。そこまで極端でなくても、通路で試食を薦めたり、資料を配布するなど、研究者の卵である学生たちは積極的に来場者との交流を楽しんでいる様子がうかがえる。研究内容の発表が中心で、地味になりがちなこの展示会の雰囲気を盛り上げている要因は若い学生たちの存在なのである。
 
  「この展示会に来て今まで知らない世界があることを知りました。来場者の方々は研究内容について『すごいね!』『おもしろいね!』と言ってくれます。自分の研究の価値を改めて実感しました」(大学院修士1年生・男性)
 
 「対外的な発表は初めてです。とても緊張しましたが聞いてくれる方が真剣なので、楽しく嬉しく対応できました。大学院に進学する予定ですが、色々な分野に視野を広げるきっかけになりました」(大学生学部4年生・女性)
 
  どうやら、アグリビジネス創出フェアは、大学生や大学院生にとっても刺激を得られる機会であり、キャリア教育の場にもなっているようだ。
 
 会場の一画には「大学は美味しい!!」というテーマの飲食コーナーが設けられている。大学と企業が連携をして生まれた食品を実際に食べてもらおうという企画だ。これも平成27(2015)年度が初めての試みだという。まさに展示会が目指す企業とのマッチングが成功した事例を体験する場であり、飲食スペースを設けることで来場者の滞留時間を伸ばすことにも貢献しているのだ。
 

コスプレやメイクで特徴あるPRに取り組む学生たち。
研究者を目指す学生にとっては、他大学の研究内容を知る絶好の機会にもなっている。

 
 

常識に捉われない仕組みと熱意こそが、
かつてない賑わい空間を創出する

 
 

 アグリビジネス創出フェアに教育的な側面を盛り込もうと働き続けてきたのがコーディネーターの髙橋修一郎氏である。髙橋氏は大学などで行われている研究を事業として展開するサポート会社の経営者であり、5年間にわたり同展示会のコーディネーターを務めている。
 
   「農学系の研究室がこれだけ集まるビジネスの展示会は他にありません。農学系を志望する高校生が来れば、社会実装を見据えた農学研究の最前線をリアルに感じることができます。大学院を探す大学生が来れば、熱をもって研究をしているラボを知るきっかけになるでしょう」
 
   髙橋氏の呼びかけによって、平成27(2015)年度は高等専門学校のブースも設けられた。現時点でビジネスが生まれたわけではないが、展示を考え、作り上げ、当日来場者とコミュニケーションをとるというプロセスは人材育成という面でもよい機会になっているという。
 
 髙橋氏はアグリビジネス創出フェアの発展について、次のように指摘をする。
 
   「事業化のプロであるシードアクセラレーターやベンチャーキャピタルの目線が加われば、この展示会はもっと発展できるのではないでしょうか。例えば、ビジネスプレゼンやデモデーのような企画を設けて、研究者が事業発掘のプロたちと対峙する場を創り出す。真の社会実装、事業化といった視点からのシビアな指摘や緊張感は、参加した研究者にも良い刺激となるでしょう。次代を担う学生の育成から事業創出までを網羅する。多様な参加者が集いテーマの振り幅も増すことで、より意義深い展示会になるでしょう」
 
   研究とビジネスのマッチングの活性化に貢献するアグリビジネス創出フェア。その裏側には研究とビジネスを結ぶコーディネーターたちがいた。開催期間以外でも、出展者にとってメリットのあるマッチングを模索し、主催者にはない発想で展示会全体の方向性にも意見する。展示会の目的を果たすために常識に捉われない仕組みとコーディネーターたちの熱意。それこそが研究の事業化を阻む巨大な障害「死の谷」を乗り越えるための懸け橋となる。アグリビジネス創出フェアは、研究者と企業の両者が切実に求める有機的なつながりを丁寧に生み出すことによって、その賑わい空間を創出しているのである。

 

 

平成27(2015)年度に行われた「大学は美味しい!!」のエリア。大学が製品化に成功した食品をその場で購入し、食べられる。ブースでの研究発表と連動している大学もあり、研究成果を体感できる場でもある。

 
 

<Data>
名称:アグリビジネス創出フェア2015
種別:展示会
主催:農林水産省
会期:2015年11月18日(水)〜20日(金)
開場:10:00〜17:00
会場:東京ビッグサイト東6ホール(東京都江東区)
入場:無料
会場面積:6,000㎡
出展者数:172団体
イベント内容: 研究機関、大学、企業の農林水産分野や食品に関する展示、基調講演、セミナー、シンポジウム、研究技術プレゼンテーション、各種マッチングサポートツアー
来場者数: 34,860人(3日間合計)
 企画・運営・広報・PR・制作物・事務局業務・施工:㈱フジヤ
ウェブサイト:http://agribiz-fair.jp