研究員Report_07
「第31回オリンピック競技大会2016
  リオデジャネイロ」(スポーツイベント)

にぎわい空間研究所
主席研究員  宮下 和久

リオ五輪を踏まえ、東京五輪が目指すべきもの
観光立国とグローバル国家に進化する起爆剤へ
 
 
 

 平成28(2016)年8月5日から21日まで「第31回オリンピック競技大会 2016/リオデジャネイロ(以下、リオ五輪)」が開催された。次のオリンピックは、平成32(2020)年の「第32回オリンピック競技大会 2020/東京(以下、2020東京五輪)」である。日本は閉塞する経済状況を打破し、その先の未来を創造するために、2020東京五輪を戦略的な起爆剤として活用しなければならない。私が提案する戦略の方向性は「観光立国への成長」「グローバル国家への進化」である。
 
 リオ五輪は南米大陸で開催される初めてのオリンピックだった。開催国のブラジルはいわゆる新興国である。昭和39(1964)年の東京オリンピック、そして平成20(2008)年の北京オリンピックがそうであったように、リオ五輪はブラジルにとって国威発揚の機会であり、社会インフラを整備するための起爆剤だった。事実、今回の五輪開催に合わせてBRT(Bus Rapid Transit/バス高速輸送システム)や地下鉄などの交通機関も整備され、リオデジャネイロ市における社会インフラは近代化に拍車がかかった。
 
 リオ五輪では、軍や市警察を動員して会場周辺を封鎖するなど徹底したセキュリティの確保が行われた。結果として、懸念されていたテロなどは起きず、無事、閉幕した。新興国、ブラジルが限られた予算のなかで仮設の施設などを多用するなどの知恵を絞り、国家としての資源を総動員して、オリンピックをやり遂げたことは高く評価された。
 
 一方、開催を4年後に控えた2020東京五輪では現在、競技会場の整備などに必要な費用が当初予算の数倍にまで膨れ上がり、その問題ばかりが連日報道されている。開催費用は税金で賄われるのだから、適正な整備が望ましいのは当然だ。だが、焦点を当てるべきなのはその点だけなのだろうか?
 
 本当に議論すべきは、2020東京五輪を開催する意味であり、その後の国家成長ビジョンである。日本は人口減少と少子高齢化の社会に突入しており、従来の日本を支えてきた国内需要が確実に縮小することが見込まれる。我々は東京五輪という世界的なイベントを日本の未来を切り開くための起爆剤にするべきなのである。日本が2020東京五輪を通じて積極的に磨ける価値、飛躍すべき方向性は大きく2つあると私は考える。
 
①   観光立国への成長
 日本へのインバウンド観光客は2,000万人の大台に乗るとともに、政府は平成32(2020)年にはさらに倍増の4,000万人を目指す目標を掲げている(※1)。2020東京五輪を通じて、宿泊施設の整備はもちろん、訪日外国人をもてなす分野も成長できるはずだ。交通機関や街頭の表示サインを整備するとともに、スマートフォンなどを利用したIT分野での「おもてなし」サービスも開拓の余地が十分にある。オリンピックでは、多言語対応への必要性がかつてないほどに生じるので、通訳ソフトやロボットなど革新的な技術やサービスの登場が期待される。さらに、富裕層をターゲットとした付加価値の高い「スポーツツーリズム市場」を開拓する好機ともなるはずだ。
 
②   グローバル国家への進化
 人口が減少に転じ、今後は今まで以上に海外に市場を求めなければならない日本は、2020東京五輪を真のグローバル国家へ転化するスプリングボードにできるはずだ。世界中から選手や関係者、そして観光客が日本を訪れるオリンピックはまさにグローバル社会の未来像を我々に見せてくれる場でもあるのだ。2020東京五輪を機にグローバル人材育成の環境も整えられる。例えば、グローバル社会で求められる外国語の運用能力と異文化への対応力を養うのに「英語村」を整備するのも効果的だろう。ぜひ、小学生から大学生などの生徒・学生を中心とした層のグローバル化に2020東京五輪を活用するべきである。
 
 オリンピックは世界的なブランド力のあるスポーツイベントだ。その絶大な価値を最大限に有効利用しながら、その先にある日本の未来を創造する戦略を立て、実行に移す。それこそが、五輪開催を4年後に控えた我々、日本人が取り組むべきことなのである。
 
 
 
 
出典:
※1 毎日新聞2016年3月31日「訪日観光客 20年に4000万人 政府、目標を倍増」 http://mainichi.jp/articles/20160331/k00/00m/020/119000c

 研究Report_07

リオ五輪の裏側を探る【後編観戦者への対応

第31回オリンピック競技大会 2016/リオデジャネイロ(スポーツイベント)

編著:にぎわい空間研究所編集委員会

 
 

 南米大陸初の五輪「第31回オリンピック競技大会 2016/リオデジャネイロ(以下、リオ五輪)」が平成28(2016)年8月5日から21日まで、ブラジルのリオデジャネイロで開催された。本稿では前編に引き続き、宮下和久主席研究員から取材した内容と写真を中心に、リオ五輪が開催された現地での様子を紹介していきたい。
 
 リオ五輪の開催にあたっては、数々の不安要素が懸念されていた。競技場や公共交通機関の整備、頻発するテロリズムへの対応、そして観光客の安全の確保などである。新興国であり治安が決して安全とは言えないブラジルでの五輪開催において、競技実施以外の部分でどのような対応がなされるかにも注目が集まっていた。
 
 リオ五輪レポートの後編となる本稿では、以下の5つのテーマに関して写真と文章で紹介をしていく。

 
① 交通機関
② セキュリティ
③ ホスピタリティ
④ リオの街
⑤ トピックス 
 
 
 

【①交通機関】
 
   五輪を観戦する人々を輸送するためにリオデジャネイロ市内には地下鉄とBRT(Bus Rapid Transit)が整備された。BRTは既存の道路に設けられ、複数の車線の中央分離帯側の車線がBRT専用の車線と定められた。一般の車両は通行できず、監視カメラで違反車を確認すると罰金を課す。日本でも2020東京五輪に向けて新橋・豊洲間でBRTの導入が計画されている。
 

 各競技ゾーンへのアクセス方法を記した案内。地下鉄やBRTの駅に設置されている  地下鉄の駅コンコース。広告は一切掲出されていない  地下鉄のホーム。こちらも広告は掲出されていない。一部の車両は五輪のデザインだった  地下鉄からBRTの乗り換え。五輪関連のサインは緑色が基調。英語とポルトガル語のみ  BRT(Bus Rapid Transit)のホーム。ホームの高さに合わせてバスの乗降口を設計  BRTの側面。乗降口は地面よりも高い位置に設けられている  BRTは2両編成で大量輸送を可能にしている  BRTの駅。道路の中央分離帯部分に設けられ、ホームの両側に方面の違うバスが発着  BRTの駅。地下鉄への連絡サイン  「バーラ五輪パーク」の最寄りのBRTのターミナル駅
 
 
 
 

【②セキュリティ】
 
 リオ五輪ではテロが懸念されていたが、結果として大きな事件は起きなかった。会場の周辺は軍隊が、そして会場内は市警察が警備するとともに、会場内へ入る際のセキュリティチェックも徹底していた。印象的だったのは、五輪スタジアムだ。数万人規模の入場に対応するために200mものエントランスゾーンを設け、セキュリティおよびチケットのチェックを行い、円滑な入場を行っていた。
 

 デオドロ競技場:金属探知器による荷物チェック  デオドロ競技場:チケットチェックのゲート  バーラ五輪パーク:金属探知器による荷物チェックを行うテント  バーラ五輪パーク:チケットチェックを行うテント  バーラ五輪パーク:チケットチェックのゲートとボランティアスタッフ  バーラ五輪パーク:会場内からチケットチェックのゲートを望む  バーラ五輪パーク:会場の警備にはリオデジャネイロ市警察があたる  五輪ゴルフコース:荷物チェックのテント  五輪ゴルフコース:チケットチェックのテントへと続く動線  五輪スタジアム:入場ゲートへと続く行列。数万人規模の入場を集中管理する
 
 
 

【③ホスピタリティ】
 
 リオ五輪のそれぞれの会場には競技場に加えて、来場者をもてなすホスピタリティ施設が設けられていた。デオドロ地区の競技場が集積するエリアに設けられたXパーク(X Park)では、各競技の体験コーナーやパブリックビューイング、イベントコーナーなどがあり、競技の前後や合間の時間を楽しむ人々で賑わっていた。
 
 Xパーク:地元の乗馬クラブが近隣の競技場で開催されている乗馬競技の楽しさを紹介  Xパーク:ラグビーの体験コーナー。子どもたちがタックルを体験  Xパーク:ラグビーの体験コーナー。ゲーム用のゴール向けてプレイスキックに挑戦  Xパーク:パブリックビューイングとステージのエリア  Xパーク:ステージ上では音楽のライブを開催。大会マスコットも登場  Xパーク:飲食ブース。スポンサー企業の限られた商品のみを販売  Xパーク:飲食ブース。ビールはブラジル企業の「Skol(スコール)」が公式スポンサーに  Xパーク:場内を走る電気自動車。スタッフの移動に使用  Xパーク:車イスの貸し出し所。すべての会場に設けられていた  Xパーク:VISAのカスタマーサービス。現金の引き出しや両替が可能  五輪ゴルフコース:VISAカスタマーサービスのガイド。障害者も五輪運営に参加  バーラ五輪パーク:VISA運営のスーベニアショップのエントランス。各国語で「ようこそ」を表示  バーラ五輪パーク:VISAのショップ店内。巨大なテントは床付きの仕様  地下鉄のインフォメーションコーナー。広告物は特に掲示されていない  各競技ゾーンへのアクセス系統を記したサイン  五輪ゴルフコース:中央の赤いテーブルは飲食用のテーブル  五輪ゴルフコース:スポンサーのブリヂストンによるパターゴルフ体験コーナー  五輪ゴルフコース:ブリヂストンによるゴルフのレッスン。インストラクターが指導  五輪ゴルフコース:VIP用のホスピタリティ施設の入口。特別チケットが必要  五輪ゴルフコース:左上の白い建物がVIP用のホスピタリティ施設

 
 
 
 

【④リオの街】
 

 アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港。空港構内には五輪関連のディスプレイは数少なかった  空港から街の中心部に向かう高速道路からファベーラ(スラム街)を望む  空港から街の中心部に向かう高速道路からファベーラ(スラム街)を望む  リオデジャネイロ市の中心部。古い石造りの建物と石畳の街並みが広がる  コルコバードの丘からリオの中心部を一望する  コルコバードの丘の頂上に位置するキリスト像  リオのカーニバル専用の常設スタンド。全長は約700m。ここで審査が行われる  リオのカーニバル専用の常設スタンド。スタンド下の空間は小学校として活用  コパカバーナビーチ:浜辺に五輪のモニュメントが設置されている  コパカバーナビーチ:VISAのレストラン  コパカバーナビーチ:サムスン電子機器製品ショールーム。砂浜に床付き仮設テント  コパカバーナビーチ:VISA運営のスーベニアショップ。砂浜に床付き仮設テント  コパカバーナビーチ:NISSANのホテル。壁面にはプロジェクションマッピング  朝のコパカバーナビーチ  五輪スタジアム周辺の街並み。観客で賑わう会場の周辺には昔ながらの街が広がる  街なかに設置されていた五輪会場への交通経路図
 
 
 
 

【⑤トピックス】
 
  マラカナン競技場で点火された聖火は、大会期間中、リオデジャネイロ市内に移されて一般に公開されていた。聖火の周辺は観光客で賑わい、記念撮影をする人々であふれていた。聖火もまた、五輪開催地に賑わいを提供する重要なコンテンツであることが分かる。
 

 開会式を行ったマラカナン競技場からリオの市街地に移された聖火台  開会式を行ったマラカナン競技場からリオの市街地に移された聖火台  開会式を行ったマラカナン競技場からリオの市街地に移された聖火台

 

 
 観光立国とグローバル国家への進化に向け、
東京五輪を日本の未来創造に活用する
 
 
 リオ五輪は南米の新興国で開催された初のオリンピックということもあり、大会直前には円滑な運営を不安視する声も聞かれた。だが、実際には大きな混乱もなく、無事幕を閉じることができたのである。
 
 ただ、日本における2020東京五輪の開催目的は、リオ五輪とは異なる。新興国のブラジルにとって五輪は国威発揚の機会であり、インフラ整備の起爆剤だった。一方、成熟した社会であり、少子高齢化と人口減少を抱える日本にとっての2020東京五輪は「観光立国への成長」「グローバル国家への進化」など、その先の豊かな社会を創るための起爆剤とすべきなのである。
 
 オリンピック後の日本はどうあるべきかを議論し、戦略を立てたうえで、世界的なイベントであるオリンピックを未来へと飛躍する日本のスプリングボードにする。2020東京五輪は、日本の未来が切り開ける可能性を内包した千載一遇のビッグチャンスなのである。